昨年12月の実質賃金は前年比1.9%減少し、これで21か月連続の減少となりました。企業の価格転嫁が物価高と同時に企業利益を高め、これが株高の源泉になっています。政府日銀は賃上げ促進策もあり、間もなくこれがプラスになると期待しています。しかし、ここまで株価の押し上げに寄与してきた実質賃金のマイナスを企業は放棄できるのでしょうか。株価を損なわない実質賃金プラスは可能でしょうか。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年2月9日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
21か月連続の実質賃金減少
厚生労働省が6日に公表した昨年12月の「毎月勤労統計」によると、12月の名目の現金給与総額は前年比1.0%の伸びにとどまりました。
所定内給与が1.6%増えたものの、所定外が0.7%減少した上に、特別に支払われた給与(ボーナス)が0.5%の低い伸びにとどまったためです。
この結果、物価上昇を差し引いた実質賃金は1.9%の減少となり、これで21か月連続の減少となりました。
政府は23年の賃上げ3.58%は、30年ぶりの高い伸びと胸を張りますが、定昇が約2%あるので、3.58%の賃上げは、実際には1.6%前後の「ベースアップ」にすぎません。現にこれに相当する「所定内給与」は1.6%増となっています。
この実質1.6%ベアでは3%を超える物価上昇にはとてもかなわないわけで、24年は物価上昇を上回る賃上げが必要……との認識が広がっています。
そこで政府は昨年暮れに、賃上げ促進税制の改訂版2024年を打ち出し、減税の恩恵を受けない赤字企業にも配慮して、5年間の繰越を認めることにしました。
大企業の場合、7%以上の給与支払い増に対し、最大で35%の法人税控除の「人参」をぶら下げ、中小企業には最大45%の控除を提示しています。
大幅賃上げの広告宣伝効果と減税をうける「一石二鳥」となるので「7%賃上げ」を表明する企業が増えています。
賃金抑制で利益は過去最高に
しかし、ここまで企業は人件費増を抑制し、一方で輸入コスト高の分を積極的に価格転嫁するようになりました。これが物価高となり、労働者にしてみれば実質賃金の減少となり、企業は価格引き上げ、マージン拡大で最高益を実現する形になりました。
財務省の「法人企業統計」によると、昨年7-9月期の経常利益は前年比20.1%の大幅増益となり、過去最高益となりました。価格転嫁により売り上げが増え、利益を拡大させています。
その一方で当期の人件費は前年比4.1%増、1人当たりでは2.7%増に抑えています。この人件費抑制が2桁増益をもたらし、さらに利益剰余金(内部留保)は7.1%増えて568兆円と、日本のGDP1年分に迫る規模になりました。
この利益拡大、内部留保増が株価上昇につながっているわけで、言い換えれば実質賃金の減少が企業利益の源泉でもあり、これが株高につながっています。