積極的な株主還元は継続する?
まず最大のリスクである、建設資材価格高騰への対策を行っていることが関係しているでしょう。
組織体制としては23年10月に調達本部を設置。支店単位での個別調達を集中購買に切り替えることで資材価格を抑える取り組みを行っています。
さらに大規模オフィスや商業施設などの受注を減らし、採算性の高い案件を増やすなど、収益性の改善を進めています。
大規模で完成までに時間がかかる工事は、これまで人件費や資材高騰などのコストコントロールが難しいのです。
一方で、メーカーなどが発注する工場建設は、建設コスト以上に製品の品質や稼働開始の時期を重視するので、価格転嫁や値上げも受け入れる傾向が強いのです。
また、工事受注ビジネスという景気変動リスクが高いビジネスから脱却し、より安定化させる目標を掲げています。グリーンエネルギーや不動産開発事業など、従来の建設・土木事業から周辺事業への多角化を進める動きもあります。
出典:中期経営計画
こういった一連の取り組みが、大林組の収益性を改善させることから、配当金や自社株買いなど株主還元の強化を行うことができる、というメッセージなのかもしれません。
問題は、この積極的な株主還元が継続するのか?という視点です。
実は、この観点で重要な発表がありました。
それは配当の目安を自己資本配当率(DOE) を3%から5%へ引き上げる、というものです。一般的な配当の指標として当期純利益に対する配当の割合を示す、配当性向がありますが、これを基準とした場合、利益がなくなれば配当金が減ってしまうというデメリットがあります。
一方で、自己資本は利益よりも増減しにくいため、DOEを基準とした大林組の配当金は安定的かつ積極的に配当還元を行うという姿勢に変わったと読み取れます。
同時に財務健全性の指標である自己資本の目標水準は、自己資本比率40%程度だったものが「自己資本1兆円」へと変更されました。よって必要最低限の資本を保有することで、資本効率の改善や、ROEの上昇に繋がると考えられます。
この一連の発表は、株主還元を重視する投資家にとっては非常にポジティブです。
しかし、そもそも大林組の事業環境が大幅に悪化すれば、還元継続への疑念は高まります。
積極的な株主還元が継続するための条件として考えられるのは
- 22年3月期のような急激なコスト上昇が起きないこと
- リーマンショックのような経済の混乱がないこと
- コロナ禍のように企業が設備投資を縮小するような局面が訪れないこと
こういったネガティブサプライズが起きなければ、同社の株主還元は継続する可能性が高そうです。
これらを踏まえて、投資判断を行います。
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