今回は過去最高益を達成した「東宝<9602>」を分析します。エンタメ業界を牽引し、国内トップの売上規模を誇る同社の株価は長期上昇中で、時価総額はついに1兆円を超えました。また不動産事業など映画以外の収益源も好調です。長期投資家として東宝は買いか否か。投資する場合のポイントについても解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
東宝は映画と不動産で利益を稼ぐ
東宝は1932年に東京宝塚のための劇場として設立されました。設立から90年近く経ちますが、映画・演劇の興行を主たる目的として、興行業界のトップを走り続けている企業です。
業績はコロナ禍で大きく落ち込みましたが、2024年2月決算では売上・利益ともに過去最高を達成しました。コロナ禍を乗り越え、成長していると言えるでしょう。
出典:マネックス証券
では、東宝は何で稼いでいるのでしょうか?事業ごとに分解してみましょう
出典:決算短信より作成
利益の内訳を見てみると、映画事業がトップです。
映画事業では、制作した映画のほか、国内の制作会社から委託された映画を配給しています。具体的には共同制作したテレビアニメ作品の映像配信権を各映画館に販売したり、TOHOシネマズなどの入場料収入などがこの事業の主たる収益源です。
また不動産事業も利益に貢献していることがわかります。
東宝は東宝日比谷ビルや有楽町東宝ビル、そして新宿東宝ビルなど、都内の一等地で様々な商業ビルを保有しています。これらの物件の不動産賃貸収入が、利益に貢献しているのです。
では、競合他社はどのような会社があるのでしょうか?
東宝がトップである3つの理由
日本の映画業界は東宝・東映・松竹の3社が大手企業と言われています。
その3社の売上高を比較してみましょう。
出典:決算短信より作成
これをみると、東宝は売上高トップであることがわかります。
それはなぜでしょうか?理由は3つあると考えています。
- スクリーンの数
- 不動産を含めた事業構造の強さ
- 制作会社とのパートナーシップ
(1)は陣地取りゲームと同じなのですが、「映画館を多く持っていることが、収入の増減につながる」というシンプルな強みです。
出典:各社ホームページより作成
国内首位は「イオンモール」とシナジーがあるイオンシネマですが、映画を主たるビジネスとしている3社では、東宝が最大のスクリーン数を保有しています。
大規模商業ビルなどがオープンする時、その多くは集客のために映画館をテナントに入れることを検討します。映画各社からすると自社が出店できなければ、他社にシェアを取られるだけですから、多少利益率が悪くとも、出店する動機があるのです。
(参考情報:なぜ「スクリーン数は十分」なのに、次々とシネコンがオープンしているのか?【ビジネス+IT】)
こういった競争に勝ち続けたことで、高い市場のシェアを獲得しているのです。
(2)の不動産を含めた事業構造の強さは、先ほど説明した通り、当たり外れがある映画事業に加え、不動産事業を持っていることです。業界2位の東映は、2022年度にスラムダンクやワンピースなどのヒットによって大きく業績を伸ばしましたが、同社の不動産事業は利益貢献度が高くありません。
出典:各社決算説明資料より作成
東宝は映画と不動産の両輪で利益を稼げる強みがあります。(一等地が多いことで集客力がある物件を持てる。これがそのまま興行収入に好影響をもたらす、とも言えるかもしれません)