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孫正義氏の“AI革命”で日本飛躍へ。ソフトバンクGが25年秋に量産する「AI半導体」が世界を席巻する=勝又壽良

日本経済は、23年度の国際収支で25兆3,390億円の経常黒字を計上した。だが、所得収支全体は黒字でも「デジタル赤字」がなんと5兆6,000億円にも膨らんだ。デジタル赤字は、コンピュータサービスの赤字を意味する。日本にとっては、この上ない不名誉な事態である。日本経済が、ソフト面の脆弱性を抱えることをハッキリ露呈したからだ。

問題は今後、このデジタル赤字が膨らみ続けるという予測である。これを食い止めるには、日本が世界的なAI(人工知能)革命の波に乗り、リードできるかどうかという課題が立ちはだかっている。この難問解決に対して、一役どころか二役以上の貢献を期待される企業がある。ソフトバンクグループであり、それを牽引する孫正義氏だ。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

孫正義氏の描くAI革命地図

ソフトバンクグループ(SBG)は5月11日、AI革命に向けて10兆円投資の計画概要を発表した。

孫氏の掲げるAI革命とは、AIや半導体、ロボティクス(ロボット工学)の最新技術を融合し、あらゆる産業に革新をもたらすこととされている。その中核となるのが、大量のデータを効率的に処理できるAI向け半導体の開発・製造事業だ。米エヌビディアのような自社工場を持たないファブレス形式で参入し、2025年春をメドに試作品を完成。同年秋までに量産体制を作ることを目指している、としている。

この「孫構想」は、日本のAI革命にどのようなインパクトを与えるか、極めて興味深く大きな期待がかかっている。これまで、「失われた30年」の日本で、こうした具体的な構想が登場したこともなかった。それだけに関心が集まるのだ。

孫氏は、2021年6月のSBG株主総会で、「情報革命の資本家になる」と発言した。AI関連企業に出資し、その成長を支えるファンド事業へ出資を拡大することである。

ところが、前記の「AI革命に向けて10兆円投資の計画」では、自らがAI革命の事業を行う「当事者意識」を鮮明にした。これまでの情報関連投資によって、AI状況を詳細に把握している。これを基盤に、関連投資先を糾合してAI革命そのものに身を投じるという宣言である。日本企業では、初めての構想である。

この宣言は突然、出てきたものではない。孫氏は昨年10月、人間の知能を超える汎用人工知能(AGI)が、「10年以内に実現し全人類の英知の10倍を達成する」と強調。傘下の英半導体設計大手アームを中核に投資と実業の両立をめざすと明らかにしたのだ。次の発言が、孫氏のAIへの総合構想を物語っている。

「AGIは人間の敵でない。それを活用するか、さもなければ取り残されるかだ。AGIを最強の味方、パートナー、道具と思って最大限に活用すべきだ」。SBGが、「世界で最もAIを活用するグループにしたい」と抱負を述べたのである。

オープンAIによるChatGPTの最新モデル「GPT-40」は、音声や画像、映像による入力に素早く音声によって「応える」ところまで発展している。例えば、画像を見せればその場所がどこであるかまで応えるのだ。入力情報が古いと、その答えを間違えるケースもあるが、ともかく想像を超えるスピードで発展している。

「デジタル赤字」を抱える日本が、「一打逆転」のチャンスを生かすには、SBGがこれまで培ってきた情報投資先関連企業を糾合し、具体的にAIビジネスを展開する道を模索する以外にない。

SBGは、2018年10~12月に全株売却したエヌビディア株を所有していた。エヌビディアは現在、AIに不可欠の半導体企業として一躍、時代の寵児になっている。時価総額は、2兆ドルを超える史上4番目の企業にまで急成長している。SBGが、今まで保有し続ければ、同社の業績も大躍進したことは間違いない。ただ、これによってSBGの路線に狂いが出たかも知れない。半導体への進出計画(ファブレス=工場を持たない)と矛盾するからだ。

Next: 孫正義氏はどこまで先を読んでいる?英アーム買収が競争力の原点

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