23日に行われたジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演は、米国が9月から利下げに転じることを強く示唆し、株式市場に大きな影響を与えました。これにより、ダウは4万1,000ドルを超え、株価は再び過去最高値に接近しています。しかし、利下げがもたらす光と影の両面に注目する必要があるでしょう。景気のソフトランディングを達成した一方で、新たなバブルリスクが高まっています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年8月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
株価最高値圏で利下げに転じる光と影
23日のジャクソンホールでのパウエルFRB議長の講演は、米国が9月からいよいよ利下げ局面に入ることを示唆し、市場に大きな反響をもたらしました。
事前に7月開催のFOMC議事要旨で、多くの参加者が9月の利下げ開始を支持していることが示されていたのですが、議長の講演でこれが改めて確認されました。
議長はインフレの改善が顕著な進展を見せ、今後についてインフレの懸念がほとんどなくなったのに対し、雇用悪化の懸念が高まり、これ以上の雇用悪化は望まないと明言、今後は雇用維持を主眼とした、計画的な利下げ局面が始まることを示唆しました。22年春からの急激な利上げ局面、23年から8会合連続の据え置き期間を経て、この9月から利下げ局面が始まることになります。
この講演を受けてダウは4万1,000ドルを超え、株価3指標ともに過去最高値に再び接近しています。株価が最高値圏にあるなかで、金融政策が緩和に転換することは異例の事態で、この裏にはFRBの成功と新たなリスクを内包しています。
景気後退なしに引き締めを終了
特筆すべきは、FRBがインフレ抑制のために引き締めを行いましたが、その過程で米国景気をリセッション(景気後退)に陥れることを避けられたことです。従来、多くのケースでインフレを抑制するために需要を抑制し、景気後退という犠牲を払ってインフレの改善を手に入れていました。
今回もFRBの引き締め開始が22年春にずれ込み、インフレがすでに本格化してからの転換で、市場からは後手に回ったとみられ、実際その分近年にない急激な金利引き上げを余儀なくされました。これは1979年の「ボルカー・ショック」以来の急激な金融引き締めと認識されました。そして長短金利が逆転する「逆イールド」が発生しました。
このため、景気先行指数もニューヨーク連銀の「景気後退確率」も、23年にはかなり高い確率で米国経済は景気後退に入ることを示唆していました。多くのエコノミストも23年以降米国が景気後退に入ってもおかしくないとみていました。
ところが現実には急激な利上げに出た22年後半以降、米国経済は2%前後の成長を続け、ついには市場からもFRBからも「ソフトランディング」という言葉が聞かれる状況、つまり景気が堅調な中でインフレが改善する状況を手に入れつつあります。
これはFRBにとっても誇るべき成果と言えます。