韓国経済は、史上最大級の危機に直面している。トランプ大統領が打ち出した自動車関税25%の適用が、韓国の主力輸出産業である自動車・半導体に大打撃を与えることが確実視されている。しかし、韓国は現在、リーダー不在の政治的混乱に陥っており、アメリカとの交渉すらままならない。この事態を招いた背景には、米韓FTAの「安全保障例外条項」がある。本記事では、関税問題の詳細とFTAの盲点について解説する。(『 2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済) 2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済) 』)
※本記事は有料メルマガ『2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済)』2025年3月3日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
韓国、史上最大のピンチ
韓国経済にとって、とても残念な知らせがある。それは韓国史上における過去最大のピンチといってもいい。すでに前回の記事でトランプ氏の関税で自動車や半導体など韓国の主力輸出に課せられる可能性について言及したが、その具体的な数値が出てきた。
なんとトランプ氏は、自動車関税25%を課すという。半導体も似たような関税となるだろう。しかも、4月2日に発動するという。発動までに1ヶ月程度あるのだが、これはトランプ氏が関税交渉に応じる構えを見せている。
韓国にとって問題なのは、昨年12月3日の戒厳令以降、尹錫悦大統領は弾劾されて職務停止状態にあることだ。大統領の代行の代行をチェ・サンモク氏が務めているが、彼はトランプ氏と電話会談すらしてもらえていない。つまり、交渉役が不在なのだ。
トランプ氏に自動車関税25%をなんとか下げてくれと頼もうとするにも、国のトップが不在……。このどうしようもない状態が、新しい韓国大統領が誕生するまで続く。過去最大のピンチなのである。
そして興味深いのは、韓国と米国は事実上、関税をゼロにする「米韓FTA」を締結していることだ。それなのになぜ、韓国まで追加関税の対象となっているのか……不思議に思う読者も多いことだろう。今回はこれについても解説したい。
「米韓FTA」を締結しても、韓国が関税の対象とされる理由
このメルマガ このメルマガ も気がつけば10年以上の長い歴史を持っているので、米韓FTAについてはいろいろと特集してきた。その中で「毒素条項」なるものがあったことを覚えているだろうか。まずは「FTAとは何か?」をおさらいしておこう「自由貿易協定」という言葉の通り、FTA(Free Trade Agreement)は2国間以上で結ぶ国際協定である。平たく言えば、経済上の優遇策だ。主な内容は、物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁をなくすことが挙げられる。一番わかりやすいのは、物品の関税撤廃である。
このように自由貿易を促進する目的で結ばれる協定が「FTA」である。だいたいは関税をできるだけ下げて、両国品の輸出を活性化させるためのものだ。韓国はアメリカに対して、米だけは例外事項として定めている。
この「米韓FTA」があるため、自動車部品にかかる関税も0%になった。自動車本体についても、段階的に関税が廃止されていって、今では0%である。ただ、韓国のピックアップトラックだけは、まだ関税が25%かかっていたはずだ。さらに、2018年にトランプ政権が「米韓FTA」見直しを行って、「通貨安誘導を禁じる」為替条項を初導入することで合意している。
毒素条項の内容もおもしろいのだが、今回は毒素条項ですらなく、米韓FTAの中身にはっきりと書いてある。米韓FTA協定の23.2条の条項に、「国際平和、安全保障の維持または回復に対する自国の義務履行、自国の必須の安保利益の保護に必要だと判断する措置は適用を排除する」とあるのだ。
今回、トランプ政権は国家経済非常事態宣言を行い、アメリカの財政赤字を削減することを目標としている。そして、税収を増やすための関税というのは、自国の安全保障の維持や回復に繋がることだ。なので、米韓FTAは適用されないという解釈となる。
この条項をアメリカが適用すれば、韓国製品にも関税が課せられる。つまり、アメリカの判断次第で「米韓FTA」は実質的に無効化されるということだ。しかし、通常、関税を撤廃することは双方にとって利益があるため、このような条項は単なる保険とも言い難い。実際、アメリカもFTAによって恩恵を受けており、特に農畜産物や医療分野ではその利益が顕著だ。
例えば、米国産豚肉(冷凍肉、首まわりの肉、骨なしカルビなど)の関税は撤廃されている。また医薬品分野でも、複製医薬品の市販許可、関連した許可・特許連係の履行でもアメリカは恩恵を受けている。
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