電気自動車(EV)やスマートフォン、さらには家庭用電化製品まで――私たちの暮らしを支える「リチウム電池」は、便利さと同時に数々のリスクも抱えています。発火事故や回収の困難さ、中古EV市場の停滞など、私たちはいま、“リチウム時代の負の側面”とも向き合う必要があります。利便性の裏にある課題と、そこに生まれつつある新たなビジネスチャンスを探ります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年4月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
リチウム電池の弱点を克服できるか
リチウム電池のおかげで、今ではスマホから一般家電、電気自動車に至るまで、幅広くエネルギーが供給され、生活が豊かになっています。リチウム電池を制する者が世界を制すように、原材料のリチウムの獲得に躍起となっています。中国やオーストラリアがその点で有力地域となっています。
しかしその一方で、リチウム電池の弱点、特に発火事故が少なくなく、そのリスクも指摘されています。大量に出回っているリチウム電池の安全な処理が大きな課題となっています。
中古市場が育ちにくいEV
CO2を排出せず、エネルギーコストも安いメリットをもつ電気自動車(EV)にも弱点があります。車の価格が相対的に高価で、政府による補助金がないとなかなか手が出ない価格設定となっています。その多くが電池(バッテリー)の価値と言われ、その性能・耐久性が問われます。
当初、EVの弱点として、1回の充電で走行できる距離が短く、走り出すとすぐに充電を考えなければならなかったことがあります。その充電スポットも日本では数が少なく、遠出をするには不向きとされました。最近では航続距離が500キロを超えるものも見られるようになりました。
もう1つ、バッテリーの寿命があります。EV購入時の「保証」では、8年、16万キロというのが一般的のようです。このため、数年乗ったEVを中古車市場で売ろうとしても、なかなか値が付かないと言われます。このため、EVの中古市場が大きくなりません。買い換えるのなら、年数があまりたたないうちでないと売れません。
このバッテリー、頻繁に乗って頻繁に充電すると、それだけバッテリーの劣化が早くなり、また衝突などの衝撃を与えると、バッテリーも劣化します。まだ事例は少ないものの、海外ではEVのバッテリーが発火する事故も報告されています。リチウム電池の寿命はうまく乗れば10年以上持つ可能性もあるそうですが、やはり経年劣化の問題があると、中古車を買う向きは限られ、市場も拡大しません。
充電時の発火事故
リチウム電池は小型化できて多くの製品に使われるようになっていますが、その一方で発火事故も増えています。先日はテレビのニュースで電動アシスト自転車が突然電池の部分から火を噴く事故が報じられました。
またスマホを寝ている間に充電していて、寝ている間にバッテリーが発火した事例が報告、同様のケースが少なからず発生しているといいます。またヘアー・ドライヤーや電気シェーバーから発火する事故も報じられています。
このため、業者からはスマホなどは発火に備えて、使わないときは土鍋などに入れてふたをしておくと安全と言われますが、リチウム電池を使った製品の数が多く、それらをカバーするだけの土鍋を用意することは容易でありません。
充電時の事故は、長い時間、つまり100%充電された後も充電を続けていると熱くなって発火するケースが多いといい、またスマホなどでは落として機械に衝撃を与えるとガスが発生して熱で発火につながりやすいといいます。充電や普段の取り扱いによって発火リスクが高くなるケースがあるとしても、そこまで丹念に「取説」を読んでいない人がほとんどです。
回収も困難
ごみの回収時にリチウム電池が発火してトラブルが起きたり、最終処理段階でごみを圧縮する際にリチウム電池が発火したりして火災が起きる事故が報告されています。
このため、リチウム電池を使った製品の回収が制限されるようになりました。一般の電池でもアルカリ乾電池などは回収できても、ボタン電池の回収が困難なのと同様、リチウム電池の回収が問題になっています。
市区町村によってルールが異なるようですが、リチウム電池を使った製品の回収は、不燃ごみでは出せなくなり、リチウム電池の部分を取り外して不燃ごみで出すか、危険ごみという分類にするところもあるようです。
いずれにしても発火リスクの高いリチウム電池の回収が制限される状態になっています。
特に、中国ではEVの大量生産をした結果、今後廃車処理をするEVの取り扱いが問題になりつつあります。従来のように、車を潰し、圧縮する形の処理はできません。火災のもとになるからです。
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