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トランプ関税は“見えない消費増税”?米国が日本企業に仕掛けたスタグフレーションの罠=斎藤満

トランプ関税の影響が米国の金融政策や世界の経済に波及するとみられています。7月30日のFOMCではトランプ大統領が任命した2人の理事が利下げを主張する中で、FRBは今回も利下げを見送りました。関税が物価や雇用に与える影響をもう少し見極めたいとしています。

関税は輸出企業の対応いかんでは米国の輸入品に対する消費税、つまり消費者への増税となる面もあり、現実はそのはざまにあります。関税と消費税の相違点を見たうえで、金融市場への影響も含めて整理してみましょう。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年8月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

関税と消費税の相違点

関税と消費税とではその目的が異なるので、当然、影響も異なります。

関税は自国産業を保護するために外国からの輸入を抑制するために外国の輸出企業に税を課すもので、今回の米国の例でみれば、米国への輸入の抑制、貿易赤字の改善と、米国の税収増が期待されています。

一方、消費税は税収を増やすために、個人から消費の一部として課税します。

消費税を15%課せば、米国の消費者物価は15%上昇し、インフレが高まり、一方、税負担分実質購買力が低下して消費の減少、景気の悪化、雇用の減少が生じます。これは増税の一種で景気抑制に働きます。

日本では2014年に消費税が引き上げられ、物価高と同時にGDPが2四半期連続でマイナス成長となり、日銀は秋に量的緩和を拡大させ、金融緩和の強化で景気の支援に出ました。

関税を15%課した場合、通常は輸入品の価格が関税の分だけ上昇し、国内品に比べて競争上不利になり、輸入が減り国産品にシフト、米国の貿易赤字が改善し、税収も増えます。

しかし、現実に税金を払うのは米国の消費者で輸出業者ではありません。このため、米国の消費者には部分的消費増税となり、消費減、需要減となります。

これに対して輸出業者が15%の関税分を自ら負担し、出荷価格を下げ、現地での販売価格を変えなければ、米国の景気物価への影響はないまま米国の関税収入は増えます。米国には好都合で、負担はすべて輸出業者に課せられます。

実際のところ、関税も一義的には輸入業者が支払うので、輸出企業が国内の出荷価格を関税分すべて下げなければ、現地の販売価格は引き上げられ、米国の消費者は輸入対象品目については消費税を課せられた形になります。

米国が関税をすべての輸出国に掛ければ、米国消費者にとっての税負担もそれだけ大きくなり、消費税賦課の影響が大きくなります。

税収増とスタグフレーションは共通

関税と消費税については通常、どちらも国の税収を増やすとともに、物価高と景気悪化が同時進行するスタグフレーションをもたらします。ただし、輸出企業の対応によって、スタグフレーションの度合いが変わってきます。

今回のトランプ関税についてみると、極端な場合、輸出企業がすべて関税を自ら負担し、米国での販売価格に転嫁しなければ、米国にスタグフレーションは生じません。

その場合、米国には関税収入が入りますが、輸入品やそれを部品などで使用した米国製品の価格も上がらず、物価にも景気にも影響が出ません。

影響が出るのは輸出国で、企業収益・所得の減少によるデフレ現象が広がります。

日本の輸出企業の多くが価格転嫁せず、収益悪化で吸収しようとしていますが、その場合、日本の実質GDP(生産)は変わらなくても、実質GDI、つまり国内総所得が減ります。

Next: 私たちの生活はどうなる?トランプ関税の悪影響がじわじわ…

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