『新株式実戦論』が示す株式市場の実相 勝者の条件は技術のみにあらず
木佐森師の『新株式実戦論』は、ヘーゲルやニーチェ、ベルクソン(※3)などの思想・哲学を通して罫線の意味を教えるとともに、兵学の古典『孫子』やクラウゼヴィッツの『戦争論』を引きながら、株式市場に処するに必須なのは投資家の戦国武将的資質だと断じている。
私はこの本に引用されている古典を片端から読んだ。『孫子』は薄いから自然に全部を諳んじたが、『戦争論』は実に分厚かった。
「戦争は他の形態をとった政治の延長である」という有名なテーゼがあるが、独仏戦争ではこの哲学を体現したプロシア軍が勝ち、技術論に走った仏軍は敗れた。技術に対する哲学の勝利である。
クラウゼヴィッツは戦術レベルの不確実な情報を重視しなかったが、『孫子』は政治・戦略上の情報を重視し、改めて「用間編」という一編を設けて解説している。
「用間」とは間者を用いる方法と心構え。情報(インテリジェンス)活用の点で『孫子』がクラウゼヴィッツに優るという意見は多く、ナポレオン、毛沢東、ルーズベルトも愛読したとして知られている。
株式資産構築の掟である「儲け易いところで儲けるべし」の基本は『孫子』軍形編にある。「いにしえの善く戦うものの勝つや 勝ち易きに勝つ」これは昔から戦い上手な者は勝ち易い方法で勝ってきた、というほどの意であって、「故にそこに勇武なく智略なし」と続く。
つまり特別な度胸も特殊な智恵もいらない、前回書いた南紀の素封家・Tさんのようでいいのだ、と言っている。このTさんに、有名な風林火山のもとになった『孫子』軍争編を当てはめればこうなるだろう。
「静かなること林の如く」株をナンピン・買い集め、保有株が15%高した程度ではウロチョロ売り買いせず「動かざること山の如く」保有し続ける、そしてドレイファス・ファンドの買いで急騰したら「動くこと雷(イカヅチ)の震うが如し」とばかりに売り切る――。
木佐森師は決して丁寧に説明しない。古典に親しみ行間で解れ、との姿勢だったが、若かった私はどうしても一目、師と仰ぐ著者に面会したくなった。
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アンリ・ベルクソン(1859-1941)はフランスの哲学者。主著に『時間と自由』『物質と記憶』など
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