なぜ第2次売り出しは日本郵政単独なのか?
もう1つ、今回の日本郵政第2次売り出しで目を引くのは、2015年の第1次売り出しと異なり、ゆうちょ銀行やかんぽ生命と同時ではなく、日本郵政の単独売り出しであることである。
前回の売り出し価格との比較でいえば、売り出し価格を5%以上上回っているかんぽ生命を売り出すのが自然だと言える。しかし、そうはならなかった。
郵政民営化法では「政府が保有する日本郵政株は1/3超まで早期に売却し、日本郵政が保有する金融2社の株式は全株式を早期処分する」ことが謳われている。ただ、具体的な売却時期は定まっておらず、日本郵政は金融2社の株式を当面は50%まで段階的に売却する方針を示している。
法律では「全株式の早期処分」が謳われているにも関わらず、金融子会社2社の売り出しが見送られたのは、この2社の株式を売り出すことで日本郵便が経営権を失ってしまえば、ユニバーサルサービスや高配当を維持することが難しくなってしまうからである。
封印されている議論
郵便局に窓口業務を委託しているゆうちょ銀行とかんぽ生命は、それぞれ「銀行代理業務手数料」「生命保険代理業務手数料」として、日本郵便に6124億円、3928億円(ともに2017年3月期)、2社合計で1兆強を支払っている。これは、日本郵便の営業収益の約27%を占める重要な柱になっている。
この手数料率に関しては、高過ぎるのではないかという指摘もなされているが、現在は日本郵政が金融子会社2社の株式を89%保有し経営権を押さえているので、この手数料が適正かどうかという議論は封印されている。
しかし、郵政民営化法通りに「早期処分」を進め、日本郵政の持ち株比率が50%を割り込めば、この手数料率の議論が表に出てくることになる。日本郵政が「金融2社の株式を当面は50%まで段階的に売却する方針を示している」のは、現在の手数料率を維持しなければ日本郵便が立ち行かなくなるからである。
妥当であるか定かでない手数料率と、高い配当金を維持するためには、金融2社の株式を郵政民営化法通りに「早期に売却」するわけにはいかないという事情があるのである。
日本郵政の株主に求められる資質
日本郵政の第2次売り出しは、様々な矛盾と規制を抱えた日本郵政グループは上場企業に相応しくない組織であるということを、あらためて炙り出すことになったと言える。
経済合理性から言えば、本来上場企業が備えているはずの成長エンジンを持たない日本郵政に投資する理由はない。日本郵政に投資する意義を見つけるとしたら「東日本大震災の復興財源に充てる」という大義に賛同することくらいである。
すると、日本郵政の株主に求められる最大の「資質」とは、こうした大義に賛同したうえで、「ゆうちょ銀行の有価証券投資の成果に依存した株式投信に投資するのと変わらない」と割り切れる能力となる。それほどまでに投資する意義を見出しにくいのが、現在の日本郵政株だと言える。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年9月17日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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