値上げしても離れない「モスファン」の存在
一方で、競合のモスバーガーは苦戦が報じられています。
特に目立つのが客数の減少です。2018年3月期は1月まで前年比1%の減少となっています。対するマクドナルドが8.9%の増加ですから、その差は歴然です。
しかし、単に客数だけ見ては本質を見誤ります。客数が減少している一方で、客単価は3%増加しているのです。その結果、売上は立派に増収を続けています。
実は、モスバーガーは2015年に大幅な値上げを行っています。看板商品の「モスバーガー」が340円から370円と、1割近い値上げです。値上がりが客数の減少を招いている可能性は否定できません。
しかし、値上げ後の売上高はむしろ増加し、値上がり分ほど客数が減少しなかったということを意味しています。つまり、それだけ値上がりしてもモスバーガーに通い続ける根強いファンがいるということです。
そんなファンの一人で話題になっているのが、シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手です。
彼ほどの大金持ちであればわずか30円の値上がりなんて気にも留めないでしょうが、数字から読み取れることは、普通のお客さんでも同じように考える人が少なくないということです。
マクドナルドとモスはターゲットが違う
モスバーガーは、そもそも客数の増加を目標として掲げていません。掲げているのはあくまで「既存店売上高対前年101%」です。今年も目標をほぼ達成しています。
ここに、マクドナルドとの大きな戦略の違いが見えます。
マクドナルドの戦略は、安い価格で多くのお客さんを呼び込み、賑わいを演出することで「楽しさ」を味わってもらうことです。だからこそ、価格を下げてでも多くの顧客を呼び込むことに意味があります。
一方のモスバーガーは、あくまで品質にこだわり、お客さんにおいしさを味わってもらうことを戦略としています。それを達成するためなら、原材料費や人件費の上昇による値上げも厭わないのです。
フランチャイズ戦略に関しても両者は正反対です。「何はともあれフランチャイズ化」を目指したマクドナルドに対し、モスバーガーは品質が維持できないのであればフランチャイズ契約を解除するといった徹底ぶりです。
これは、上質な顧客体験を維持するためには本社もフランチャイズも同じでなければならないという経営者の意地が見えます。この考え方を徹底する限り、マクドナルドのようなブランド価値の毀損は本質的に起こりにくいのです。
モスバーガーは品質に対するこれだけのこだわりがあるからこそ、値上げしても顧客が離れることはないのです。急成長は望めないかもしれませんが、この先も安定的な経営をしていくことが予想されます。
マクドナルドとモスバーガーは、同じハンバーガーショップですが、提供する価値は異なります。マクドナルドが「安く、手軽に、楽しく」だとすれば、モスバーガーは「おいしく、ゆっくり、上質」といったところでしょうか。
一方の業績が良いから、もう一方の業績が悪いというような単純な話ではありません。何より重要なのは、それぞれが適切なターゲットに合った価値を提供し続けられるかということです。逆に言えば、それを見誤れば将来は危ういでしょう。
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