原子炉世界一への野望。ウェスティングハウス買収で狂った東芝
「2006年に決まった米国のウェスティングハウス(WH)の買収から東芝の経営は狂い始めました」という東芝OBの言葉を、『AERA』8月3日号の山田厚史「大ばくちが招いた無惨/東芝が原発事業で抱える危機的な隠れ損失」が引用しているが、その通りである。
周知のように、日本の軽水炉には沸騰水型(BWR・以下B)と加圧水型(PWR・以下P)の2方式があって、前者は米GEの技術を東芝が、後者は米WHの技術を三菱重工業が取り入れて、日本の市場をほぼ半々で分け合ってきた。
ところがPの本家であるWHは、米国内で売り込み済みだった最新型の原子炉AP1000が少なくとも8基、建設中止となり、前途を悲観して身売りする方針を決めた。
長年のパートナーである三菱重工業が買収の検討を始めたのは当然として、ライバルのBの本家=GEも関心を示したが、そこに勢いよく割り込んだのが東芝で、企業価値2000億円と言われていたのに対し4000億円強の「のれん代」などを上乗せして計6000億円強でもぎり取ってしまった。
進言したのは佐々木常務で、決断したのは西田社長である。
三菱は「3000億円でも高い」と思っていたので、これには驚いて、それならどうぞお好きに、という態度をとった。
業界も呆れてビックリの、このまさに「大ばくち」の決断に踏み切ったのは、そのころすでに始まっていた国内市場の行き詰まりを打開するため「これからは世界の原発市場に思い切って打って出よう」と思い巡らせていた東芝にとって、渡りに舟と映ったからだろう。
WHを抱え込めば東芝は世界唯一、BとPの両方を手がける原子炉メーカになる。世界の主流は以前からPで、発電量シェアは7割ほどを占めているので、両方を売れれば新興国などへの売り込みにも強い。
おまけにWHの営業部隊にPだけでなくBも売らせることが出来る……。それで「2015年にBP合わせて39基受注、原子力で1兆円売上げ達成」という夢が大きく膨らんだのだ。
のれん代というのは、それが達成されれば転がり込んでくるであろう金額を資産としてバランスシートに計上した数字で、それが達成させなければ減損処理しなければならない。ここから狂ってしまった。
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