イエレン路線との決別を宣言した?
こうしたことから想像されることは、パウエルFRB議長は「実務家」であるということだ。
これまでのFRBは長年実務経験を積んだ経済の専門家である「理論家」に率いられてきた。しかし、FRB議長が金融の経験を積んだ「実務家」パウエル氏に変わったことで、金融政策に対するアプローチは変化したと考えておいた方がよさそうだ。
パウエルFRB議長の講演で意味深であったのは、グリーンスパン元FRB議長を引き合いに出したことだ。
グリーンスパン元FRB議長は1987年から2006年まで5期20年間FRB議長を務め、金融政策を巧みに操り「インフレなき経済成長」を達成し「マエストロ」と称賛された人物である。しかし、金融緩和を長く続け過ぎたことで、2007年以降のバブル崩壊を招いた張本人だと批判を受ける結果となった。
「Behind the curve(金融政策が後手に回る)」に陥るリスクに強い警戒感を示していたイエレン前FRB議長は、グリーンスパン元FRB議長の失敗、つまり功罪の「罪」の方を意識していたといえる。
これに対して今回パウエルFRB議長は「既存のモデルでは失業率が低下すると物価の押し上げ圧力は強まるが、90年代には当時のグリーンスパンFRB議長が物価圧力をあおらずに経済成長が加速する可能性があると他に先駆けて認識したため、インフレは落ち着きを保った」と発言し、グリーンスパン元FRB議長の「功」の部分を取り上げて見せた。
こうした発言は、パウエルFRBはイエレンFRBとは全く異なるアプローチをとることの宣言だと捉えるべきかもしれない。
トランプ対策も万全
パウエルFRB議長がグリーンスパン元FRB議長を称賛して見せたのは、グリーンスパン元FRB議長と同様に「低金利下でのインフレなき経済成長」を目指す意思を示すことで、トランプ大統領に金融政策に関する認識は大統領と同じであることを伝え、無用な利上げ牽制発言を抑え込もうという戦略的メッセージだったといえる。
しかし、同時にそれはトランプ大統領の圧力によって金融政策を変えることはないという強い意思を示したメッセージでもある。
なぜなら、グリーンスパン元FRB議長は1988年の大統領選挙の前に、当時のレーガン政権から景気を優先させるために利下げの圧力を受けたが、FRBの独立性を守りインフレ対策として利上げを行った経験を持つからだ。
もし、パウエルFRB議長がこうしたことを含みにしてグリーンスパン元FRB議長の話を持ち出したのだとしたら、グリーンスパン元FRB議長に勝るとも劣らない老獪な議長だといえる。
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