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誰が得する?「消費税アップ」と「法人税ダウン」の危ない関係=公認会計士・税理士 柴山政行

2015年度から引き下げられた法人税の実行税率をさらに20%台まで引き下げる動きが出てきました。公認会計士で税理士の柴山政行さんは「2017年度からの税率アップを予定している消費税との引き換えにも見える」と指摘。この税制変更、誰が得して、誰が損する?

法人税の実行税率引き下げ案は庶民圧迫・大企業優遇も同然?

法人税引き下げのメリットと政府の狙い

政府が法人税の実効税率を現行の32.11%から2017年度には20%台へと引き下げる方向への動きを始めたようです。国際的に見て、各国の法人税率が値下げ競争に入っている現状に鑑み、日本もその土俵に上がる決意をしたことになりますね。

法人税の実効税率とは、企業の所得(税法上の利益)に対して課税される次の3つの税目に対する負担率を表します。

  1. 法人税……法人の所得 × 一定税率で算定される(国税)
  2. 住民税……所得 × 一定税率と均等割で構成される(地方税)
  3. 事業税……事業に関する所得 × 一定税率で算定される(地方税)

法人の所得を前提に課税されるので、住民税の均等割など、一部を除いてはおおむね赤字企業に対して税負担はありません。納税者と税負担者が同じであるため、これらの税はいわゆる「直接税」と呼ばれます。直接税は、納税者の経済的な負担能力に応じて課税されるので、所得状況に対して細かい配慮ができます。

いいかえれば、所得に応じて税額が変わるため、高所得者ほど多額の税負担を負うことになります。このような負担のあり方を「垂直的公平」と言います。

なお、今回の税負担率の低下は、国際的に海外の企業の誘致をしやすくなる反面、税率の低下による同じ所得に対する税収の減少は免れません

もっとも、法人実効税率が下がることによる企業の利益留保増大が、結果として景気の浮揚効果をもたらし、所得の増大にともなう税収アップの長期的な恩恵を受ける可能性は否定できませんね。

法人税が下がっても負担増に?赤字企業に厳しい消費税アップ

いっぽう、消費税や酒税・たばこ税のように、納税者(最終消費者)と納税者が異なる税金を間接税といいます。間接税は、たとえば消費額が同じなら、所得の大小に関係なく、同じ負担を負います。

所得の多い少ないという事情とは関係なく、広く消費行為などを対象に課税されるため、「水平的公平」があると言われています。最近の課税政策の流れは、直接税から間接税に比重を置く方向に行っているようです。消費増税があたりまえ、みたいになっていますが、事業主からすると迷惑なのが、「赤字で厳しいときにも税金を払わされる」ことです。

赤字であることは、一部の例外を除き、一般的には資金が足りない状況を意味します。それでも支払いを強要するのが消費税です。

新規滞納額が国税のなかでダントツに多いのもうなずけます(平成26年度3294億円。全体5914億円の55.7%。2位は申告所得税の1128億円)。法人税等を軽減することの効果は、企業規模が大きくなるほど多額になります。消費税の負担は、課税事業の企業規模が小さくなるほど大きくなります(課税売上1000万円以下の免税業者って、こんなの、もはや事業規模じゃないですね)。

法人税率軽減は、たしかに会社にとっては税負担が減ってありがたいですが、いっぽうで消費増税の影響を考えると、トータルでは納税額がかえって増えるケースもけっこうありますよ。

なお、同日の新聞では、法人減税による税収減を、赤字企業への増税案で補う策が検討されています。これだと、「儲かっている企業を優遇して、赤字企業から搾り取る」政策にも見えます。

誰から搾り取り、誰を優遇しようとしているか。広い視点で考えよう

もちろん、かねてから批判を受けているように、中小企業で儲かっている企業の節税対策による意図的な赤字化なども問題としてありますが、社会全体で見た場合の影響がどっちに大きいか、という大所高所からの議論が必要になりますね。

5~10年前は、わたしも法人税率の低下を支持していましたが、当時(リーマンショック前後、長期デフレ状況、消費税率、国際競争力の維持など)の状況と今は大きく状況が異なります。

消費税率アップと引き換えの法人税率ダウンのようにも見えるので、どこが得してどこが損するのか、大きな視点で見る必要がありそうですね。法人税は企業の立場ですが、消費税は庶民の立場に影響する税制です。誰から絞り取り、誰を優遇しようとしているのか――。

新聞のニュースは、いろいろな視点をもって読んでいきたいものです。

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時事問題で楽しくマスター!使える会計知識』(2015年10月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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