米中貿易戦争をはじめ、トランプ大統領は今年に入ってアメリカの自由貿易を大きく転換する政策を打ち出しました。これは米国経済にどんな影響を及ぼすのでしょうか?(『億の近道』小屋洋一)
プロフィール:小屋洋一(こや よういち)
ファイナンシャルプランナー。株式会社マネーライフプランニング代表取締役。1977年宮崎県生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、総合リース会社に就職。2008年、個人のファイナンシャルリテラシーの向上をミッションとした株式会社マネーライフプランニングを設立。
トランプ大統領の貿易政策は、アメリカにとって有益なのか
日本を代表する経済学者・吉野直行さんの見方
私の大学のゼミの恩師が吉野直行さんです。プロフィールをWikipediaで調べると、
日本の経済学者、アジア開発銀行研究所所長、慶應義塾大学経済学部名誉教授。東北大学経済学部卒、米国ジョンズ・ホプキンス大学経済学博士課程修了PhD。専門は財政金融政策。スウェーデン・ヨーテボリ大学名誉博士、ドイツ・マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク名誉博士、福澤賞。
ということで、日本を代表する経済学者・経済実務家でもあります。
つい先日、その吉野先生から私(小屋)に連絡がありました。「現在世の中で起こっている現象について見解を述べるので、小屋の方で分かりやすく世の中に意見を広めてほしい」ということのようです。
そこで、第1回目として「トランプ大統領の貿易政策」についての吉野先生の見解をご紹介します。
米国経済にとって、貿易赤字の解消が必要であるという主張
トランプ氏は今年に入り、鉄鋼・アルミニウムなどで関税を賦課したり、中国からの輸入品に対して関税を賦課したり、貿易赤字の解消が、自国の産業保護や雇用の保護のために米国経済に必要だという主張の元にこれまでのアメリカの貿易政策を大きく転換しています。
これに対して、日本はどのような行動を取ればよいのでしょうか?
それには、なぜこれまでのアメリカが自由貿易を選択し、それが世界経済にとって有効に機能してきたのかを考えてみます。
国際貿易の利点は、一番古典的な理論ではデヴィッド・リカードの比較優位論がわかりやすい説明になっています。(Wikipedia比較優位参照)
英国とポルトガルの2国で、毛織物とワインの2つを生産して貿易することを考えてみましょう。
具体的には
1単位時間分だけ働いた場合の生産量を
毛織物 ワイン
英国 36 30
ポルトガル 40 45
ポルトガルは、ワインと毛織物の双方に関して、英国に対し両方とも生産量が大きいので絶対優位です。
しかし、毛織物に関してはワインよりも生産効率が良いという意味で英国の方が比較優位であり、ワインに関してはポルトガルの方が生産効率が良いという意味で比較優位です。
つまり、英国の絶対優位性と比較優位性とは異なるということになります。
この英国とポルトガル双方が貿易から利益を得られるとはどういうことなのでしょうか?
英国とポルトガルが、貿易で利益を得られる仕組み
これも例として、各国の労働力人口と労働投入係数が簡略化のために、失業者が居ない場合を想定してを考えましょう。
下記のようにそれぞれの国が労働力を持つとします。
労働力 毛織物 ワイン
英国 220 100 120
ポルトガル 170 90 80
そうすると各国の生産量は
毛織物 ワイン
英国 100×36=3600 120×30=3600
ポルトガル 90×40=3600 80×45=3600
両国の生産量合計 7200 7200
となります。
極端ですが、これを比較優位のある産業に偏らせて
労働力 毛織物 ワイン
英国 220 220 0
ポルトガル 170 0 170
とすると各国の生産量は
毛織物 ワイン
英国 220×36=7920 0
ポルトガル 0 170×45=7650
両国の生産量 7920 7650
となり、先程の両国合計の生産量を上回ります。
これは、各国の国際分業によって全体的な労働生産性が増大することを示し、さらに、自由貿易を前提とした場合には両国が共に消費を増大させられることを示しています。
すなわち、比較優位にある財を輸出すると共に比較劣位にある財を輸入すれば、絶対優位に関係なく貿易で利益を享受できるということを意味するのです。
単純に言えば、このような理屈で、各国が得意な産業に生産を傾斜し、自由貿易を進めていくのが世界全体の生産性の意味では良くなるということで、貿易が振興されてきました。
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