広範なリスク回避の動き
この現象は株式市場にとどまりません。この日は原油相場も下げ、WTI先物は50ドルを割り込みました。先般、OPECが120万バレルの減産を決めましたが、これによる価格支持はまったく働いていません。主要取引通貨のドルが強いとはいえ、リスク商品としての原油にも投資マネーが買いを手控えるようになったと言えます。
さらに、FRBのブレイナード理事が懸念するように、内外の社債市場が不安定になり、窮屈になっていることです。社債と国債の金利差であらわされる「クレジット・スプレッド」がまた拡大気味となっています。株価が反発するときにはこのスプレッドも縮小する傾向があったのですが、最近は株価反発時にもクレジット・スプレッドは縮小せず、株価不安の際にはこのスプレッドも拡大しています。
つまり、株のみならず、リスク商品全般に投資家が臆病になり、投資の手が引っ込み気味となっています。
これは景気の悪化局面や、金融引き締めが進んだ場面でよくみられる形です。
原因もステルス級
しかし、その原因は必ずしも明確ではなく、「ステルス」の不気味さがあります。
景気の悪化懸念についても、確かに住宅関連など一部指標に弱いものもありますが、コンファレンスボードの景気先行指数は少なくとも10月までは上昇を維持し、約1年先までの景気拡大を示唆し、同じように先行性を認識されるISMも11月までは高水準を維持しています。
少なくとも米国内の景気については、ここまで堅調で、不安があるとすれば中国や欧州など、海外にあります。内向きで「米国第一主義」をとるトランプ政権とは言いながらも、中国や欧州の景気悪化は無視できないのも確かです。ただし、米国の輸出のGDPに占める割合は12%程度で、輸出依存度は先進国の中ではもともと最低レベルにあります。
その一方で、あまり意識されない中で金融が予想外に引き締まっている可能性があります。金融緩和の旗頭日本が米国向けに投資をするにも、LIBORが上昇し、スワップコストも上昇しているために、米国債の「高利回り」が効かなくなっています。
さらに、原油価格がWTIで50ドルを割り込むようになって、米銀に入る原油決済資金が減少しています。
米国市場を襲う「意図せざる金融引き締め」
これらが米国市場に「意図せざる金融引き締め」をもたらし、リスク投資を抑制する要因になっている可能性があります。
また米国の企業業績も、関税コストの上乗せや中国などでのサプライ・チェーンが機能しなくなって、収益を圧迫する面もあり、これが株だけでなく、社債の価格下落(金利上昇)要因にもなっている可能性があります。
ただ、中国を巡るトラブルも外からは見えにくく、原因がいまいち見えない中で、ずるずると相場が下がる気持ち悪さの一因になっています。