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米・中に踊らされる日本。複数のシンクタンクが見抜いたAIIBの真実=高島康司

日本の手前、中国との“対立関係”を演出しているアメリカ

アメリカのこの原則がもっともよく当てはまる国は日本だとされている。

特に現在の安倍政権は、中国を仮想敵国と想定し、中国脅威論を煽ることで国内のナショナリズムを鼓舞している。この愛国主義的な雰囲気をうまく利用して支持率を上げ、憲法改正で可能になる戦前型の国家体制を実現させようとしているのがいまの安倍政権だ。

この方向性を追求するためには、アメリカとの同盟関係を強化して中国を封じ込めるという対立図式は不可欠になる。

これは、アメリカにとっても間違いなく好都合な図式だ。安倍政権が中国との対立を喧伝し、アメリカとの同盟関係を強化する方向にあるとき、安倍政権はアメリカの希望のほとんどを丸呑みし、実現してくれる。

明らかに主権国家の権限に制限を加えるTPPの加盟や、ジャパンハンドラーのジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージが2012年の報告書で要求していた「秘密保護法」や「集団的自衛権」の可決は、中国脅威論が存在し、アメリカとの同盟関係の強化が図られていたからこそ可能になった。

これらの処置を通して、日本の自衛隊は後方支援部隊としてアメリカ軍に組み込まれ、世界の紛争地域への展開が可能な体制が構築されている。予算削減のため展開できる兵力の縮小を余儀無くされているアメリカにとって、これは大変なメリットである。

したがってもし、アメリカが中国の覇権容認を公にしてしまうと、中国の脅威に対抗するためにアメリカとの同盟関係に依存するという図式は成り立たなくなり、日本はアメリカから自立した独自の外交政策を追求せざるを得なくなる。おそらく日本は、中国とのバランスを取るためにロシアとの関係強化を模索する可能性が高い。

これは、ロシアの進出を本格的な脅威として認識しているアメリカにとってはあってはならないことだ。

このような状況のため、アメリカは特に日本の手前、中国との敵対関係を演出せざるを得ない状況にある。

緊張感のまったくない南シナ海の状況

アメリカが中国と実際には敵対していないことは、いま大きな問題になっている南シナ海の状況を見るとよく分かる。

周知のように、10月27日、アメリカはイージス艦の「ラッセン」を派遣し、中国が領有権を主張している人工島の12カイリ内を航行させた。日本ではこれは、アメリカが中国の領有権の主張をくじき、公海における自由航行権の違反は許されないことを中国にはっきりと主張した明白な行動だと報道されている。

だがアメリカによる「ラッセン」の派遣は、中国による人工島の施設建設が完成が近づいてから実施された遅きに失した行動であり、なおかつベトナムとマレーシアが領有権を主張する島々の12カイリをも通過して、こうした国々にも注意を促すというかなり穏健なものであった。

もしアメリカが、南シナ海における中国の海洋進出を本気で阻止するのであれば、攻撃力のない「イージス艦」ではなく、攻撃能力のある空母部隊を派遣していたことであろう。少なくとも多くのシンクタンク系の記事はそのように指摘している。

しかし実際にはアメリカは、中国と対立関係になる意志がまったくないことを示す事実のほうが多い。11月7日には、アメリカと中国の海軍は、米フロリダ州沖の大西洋で合同演習を実施している。この演習には、アメリカを友好訪問した中国海軍のサイル駆逐艦や補給艦などが参加した。アメリカ海軍では、ミサイル駆逐艦や巡洋艦が参加している。合同演習の目的は、海上での通信、編隊航行、救難などの訓練の実施であった。

さらに、中国軍部は、各国の国防相や軍高官を招いた多国間の安全保障対話「香山フォーラム」を北京で行っている。中国の常万全国防相は、このフォーラムに参加するベトナムやフィリピンなど東南アジア諸国連合(ASEAN)の国防相らと非公式会談を開き、2016年に南シナ海で衝突回避の訓練と海難救助の合同演習を提案した。

アメリカ、イギリス、ドイツ、日本など14カ国の政府関係者ら計約500人が参加している。アメリカも参加していることから、このフォーラムはアメリカ政府の容認で開催されていることは間違いない。

これは明らかに中国情勢を巡る緊張が緩和されていることを表している。さらにこの動きには、オーストラリアも関与している。オーストラリア政府は、オーストラリア海軍のフリゲート艦2隻を中国広東省湛江の基地に派遣し、中国海軍との合同演習に参加させている。

Next: 「AIIB」設立の見返りとしての南シナ海。安倍政権は嵌められたのか?

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