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日経新聞の奇妙な主張~「買い手の見える化」で投資家を甘やかした悲劇=近藤駿介

本来見えるはずのない「買い手」の「見える化」は、市場参加者の想像力低下を招いたようだ。この国の資産運用に関する考え方を根本的に見直すべき時期に来ている。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』)

市場参加者の想像力低下は「甘やかし」のツケである

「見えぬ売り手」と「見えぬ買い手」

バカバカしいのと同時に、考えさせられる記事でもある。
見えぬ売り手が不安増幅 「米利上げ」後、過剰に警戒 – 日本経済新聞(2015/12/16)

株式市場は「見える買い手」に慣れ過ぎたようだ。日銀に公的年金、さらには日本郵政など、政府は投資家のために「見える買い手」を用意し、甘やかし続けてきた。

本来見えるはずのない「買い手」の「見える化」は、市場参加者の想像力低下を招いたようだ。

8月下旬の相場の急落局面では、現物株にまとまった売りを出した投資家が明確に存在した。例えば原油価格の下落で保有株の圧縮を進めたとみられるオイルマネーや、株価変動率(ボラティリティー)の上昇に対応してリスク抑制に動いた米国の機関投資家だ。

出典:見えぬ売り手が不安増幅 「米利上げ」後、過剰に警戒 – 日本経済新聞(2015/12/16)

もっともらしい指摘があるが、相場が急落した後に「売り手」が明確であったといったところで時すでに遅し。それだけ明確な「売り手」が存在するのに、なぜ「売り手」が現れることに気付かなかったかのほうが問題。

だがハイイールド債ファンドの苦境はこれまでもある程度予想できたこと。事前に予見できる出来事にはマーケットはかくも敏感に反応しないものだ。

出典:見えぬ売り手が不安増幅 「米利上げ」後、過剰に警戒 – 日本経済新聞(2015/12/16)

これも無責任な主張に過ぎない。「これまでもある程度予想できたこと」なのだとしたら、なぜGPIFが10月にハイイールド債の運用を始めるといった際に、警鐘を鳴らさなかったのか。

そして、運用の専門家を集め、ガバナンスの強化を叫んでいるGPIFは、なぜ「これまでもある程度予想できた」リスクに突っ込んで行ったのだろうか。しかもFRBの利上げが確実視されていくタイミングで。

知っていて突っ込んで行ったのだとしたら善管注意義務に違反するし、知らないで突っ込んで行ったのだとしたら、公的年金を無免許で運転しているようなもの。どちらにしても国民の大切な年金資金を運用する資格があるかは疑わしい。

重要なことは、株式やFXの売買それ自体は金融ではないということ。

巷では投資をすることで金融リテラシーが上昇するかのようなことが実しやかに言われているが、金融ではない株式やFX投資をいくら繰り返しても、それだけで金融リテラシーは上昇しない。

こうしたことは、世界有数の運用会社に資産運用を委託してきた年金運用の結果を見れば明らかだ。

「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられているが、残念ながらこの国の投資に対する考え方は論理的一貫性がなさすぎる。資産運用に関する考え方を根本的に見直すべき時期に来ている。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年12月16日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

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