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GPIF「損失8兆円」報道と「日経平均2万円乗せ」の奇妙な関係=近藤駿介

GPIFの7-9月期の運用成績が7.8兆円の赤字だったという報道があった12月1日に、日経平均株価が2万円を回復した。何とも計ったかのようなタイミングだ。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』)

遅すぎるGPIFの発表。年金のリスク管理はどうなっているのか

速報値なら翌日にも算出できるはず

GPIFの7-9月期の運用成績が7兆8899億円の赤字だったという報道があったその日に、日経平均株価が3ヶ月ぶりに2万円を回復した。

何とも計ったかのようなタイミング。

7-9月期に約8兆円の運用損が生じたことは、その直後に分かっていたことで、2ヶ月以上が経過するまで速報値すら発表されないということのほうがおかしなこと。

一部PE(Private Equity)に投資しているにせよ、ほとんどがインデックスかベンチマーク運用なのだから、速報値なら翌日にも算出できる。

1200兆円にも及ぶ中国のGDPがわずか19日後に発表されることに対して、世界中で不信感が募っているが、2ヶ月以上もGPIFが速報値すら発表しないというのも不信感を募らせる話。

GPIFは2ヶ月間もパフォーマンス状況を把握せずに運用しているのだろうか。それで何のリスク管理が出来るというのだろうか。

編注1:近藤氏による9月時点でのGPIF運用損失予測

近藤駿介氏は、2015年9月14日付の記事で、この夏の株価暴落により「GPIF運用資産合計では8月1ヶ月の間に7兆円程度の損失を出した可能性がある」との指摘をしていました。

中国の人民元切り下げに端を発した世界同時株安の影響が、投資信託の8月の運用損失が1ヶ月で5兆6718億円に達するという形で表れました。

この株価の下落により、5月に100兆円の大台を突破した純資産総額も4ヶ月ぶりに大台を割り込み、96兆6387億円となりました。

投資信託が大きな運用損失を出したことが明るみになったことで懸念されるのは、公的年金です。公募投資信託の純資産は100兆円強ですが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資産額は6月末時点で141兆円と、公募投信の1.4倍の規模になっていますから、投信以上の損失を受けていることは想像に難くありません。

さらに、公募投資信託の内外株式構成比が27.4%であるのに対してGPIFのそれは45.71%(国内株式23.39%+外国株式22.32%)と、公募投資信託を18.31%も上回っています。

そしてGPIFが運用のベンチマークとしているTOPIX(配当込)は8月に▲7.36%下落している上、外国株式のベンチマークも円ベースでは9%以上下落している可能性がありますから、GPIFは内外株式だけで投資信託とほぼ同額の損失を出していてもおかしくありません。

さらに、内外債券のパフォーマンスも円高により円ベースのベンチマークが▲1.73%悪化していますから、内外債券投資でも1兆2000億円程の損失が出ている可能性があります。

こうしたことから言えることは、GPIF運用資産合計では8月1ヶ月の間に7兆円程度の損失を出した可能性があるということです。

出典:溶けた年金7兆円。GPIFの「分散投資」が逆効果になったワケ=近藤駿介

編注2:近藤氏による「公的年金崩壊」の警告

また、近藤駿介氏は10月29日付の記事で、日銀の2%物価目標が形骸化する中で「国は株式比率を高位に保っている理由を国民に説明すべきだ」とし、「今回の“公的年金ギャンブル化計画”が頓挫すれば、日本の公的年金制度は崩壊する」と警鐘を鳴らしています。こちらも、ぜひあわせてお読みください。

「分散投資」はリターンを拡大するのではなく、リスクを抑制するためのものだ。

しかし、リスクの高い(ボラティリティ≒20%)国内株式の比率を大幅に高め、リスクの低い国内債券(ボラティリティ≒3.2%)の比率を大幅に下げれば、ポートフォリオ全体のリスクは上昇する。

そもそも株式投資の比率を上げてきたのは「アベノミクスでインフレになる」というのが理由。しかし、足もとの消費者物価指数はマイナスとなり、世界的にディスインフレ、デフレリスクが蔓延している。

厚労省やGPIF、有識者たちはファンダメンタルズが変化する中で株式の比率を高位に保っている理由を国民に明確にするべきだ。それがGPIFが掲げるスチュワードシップコードに即した対応のはずだ。

出典:恐怖の「公的年金ギャンブル化計画」4ヶ月で約1.4兆円の損失を出す=近藤駿介

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年12月2日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

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