クレジットスコアが生む信用格差社会
アメリカの場合、クレジットスコアが企業間で自由に売買されている。金融機関であれば、購入したクレジットスコアを住宅ローンの審査などに使用し、業務の効率化を図っている。一般企業の場合は、DMを送付する際の基準に利用するといったことが考えられる。
このように、一般企業にとってはターゲティングできる“名簿”として利用価値が高い。その一方で、もともとは単に個人の金融情報を示すデータだったクレジットスコアが、いつの間にか個人の社会的な評価軸として機能するようになってしまっている。
就職や転居、結婚などにもこのクレジットスコアがかかわるようになり、点数が低いと、就職できなかったり、引っ越しでも不動産屋に拒否されたり、結婚にも差し障りが出るなど、いろいろな面で影響が出ている。
とくに移民社会のアメリカでは個人の信用を公正にはかる便利なモノサシとして欠かせないものになっている。しかし、スコアの良し悪しが日常生活に大きな影響を与えたり、国民の間の差別や格差を拡大させたりする負の側面があるのも否めず、使い方を間違えると、一国のみならず世界中の経済や社会を揺るがしかねない。
2008年に起きたリーマン・ショックの原因となったサブプライムローンは、クレジットスコアを利用して本来なら住宅ローンを受けられないサブプライム層にローンを組ませたために発生したものだった。
ゴマ信用は信用スコアの進化系
このアメリカのクレジットスコアをさらに“進化”させたのが、2010年以降に普及しだした中国の大手IT企業、アリババ・グループのゴマ信用だ。アリババはQRコード決済のアリペイで、最近は日本でもよく知られるようになっている。
アメリカのクレジットスコアは、ごく簡単にいってしまえば、クレジットカード・ユーザーの利用履歴を点数化し順位をつけ、それをいくつかの階層(ランク)に分けて経済的な信用の格付けを行ったものだ。
このクレジットスコアをもとに、金融機関はランクの高い人に対するローン金利を低くするなどのインセンティブを与える。つまり、ランクの高い人を優遇するわけである。社会的信用をはかるモノサシの側面があるとはいっても、クレジットカード情報が基本だ。
ゴマ信用はクレジットスコアの原理を取り入れたものだが、アリペイユーザーのクレジットカードの返済履歴やQRコード決済の買い物履歴だけではなく、個人の生活情報(暮らしぶり)がまるごとAI(人工知能)によって点数化される。その結果、人格や能力を含めてトータルで個人を格付けする基準、モノサシになっている。その点が、クレジットスコアとは根本的に異なる。
ゴマ信用では集めた個人情報を以下の5つの項目に分けて、それぞれ点数をつける。
- 年齢、学歴、職歴など
- 返済能力
- 返済履歴情報
- 人脈(リアルおよびSNSを使ったネット上の交友関係など)
- 日常の行動や趣味趣向
その点数を合計して利用者一人ひとりの総合点を出す。それを、次の5段階にランク付けする。
- 極めて優秀(700〜950)
- 優秀(650〜699)
- 良好(600〜649)
- 普通(550〜599)
- 劣る(350〜549)
点数は毎月更新され、利用者は自分の点数を確認することができる。
アリペイで吸い上げられる情報には、シェアリングエコノミーで自転車を借りたときに規約通り返却したか、SNSでどんなことを話しているかなども含まれる。
さらには罰金などの行政処分や裁判、犯罪履歴などの究極の個人情報まで、スコアリングの対象になる。