日本の計算された動き
一方、今回の動きは安倍政権による周到な計算に基づいているので、日本よりも韓国経済に大きい影響をもたらすという評価も多い。
CIAが最大のクライアントであり、共和党政権には一定の影響力のあるシンクタンク、「ストラトフォー」の記事には以下のようにある。
今回の日本の動きは、韓国に最大の影響力を与えるように日本が注意深く計画したものだ。韓国に対する日本の黒字は230億ドルに上る。韓国の輸出は対前年比で13.5%も落ちている。特に半導体輸出の落ち込みは大きい。米中貿易戦争の影響で、25.5%も下落した。7月2日には韓国政府は、今年度の経済成長率を0.2%下方修正し、2.4%とした。日本が韓国をホワイトリストから除外すると、韓国経済への影響は一層深刻なものとなる。
「ストラトフォー」の記事はこのように述べ、日本の処置は韓国経済への影響のほうが大きいとしている。そして、次のように述べ、これが日本の周到な計算であることに注目する。
今回の処置で注目すべきは、これは輸出規制ではなく、輸出審査の厳格化という点である。化学製品3品目や、韓国のホワイトリスト国除外で生じる日本企業への影響力は限定的だ。そして、これは輸出審査の厳格化なので、日本は韓国へのダメージが最大になるように思うように審査期間を調整することができる。
このように述べ、今回の輸出規制が日本が韓国から最大限の譲歩を引き出すための周到な計画に基づいている行われているので、日本経済への影響力は最小限に押さえられるだろうとしている。
歴史問題が絡むと日本は負ける
「ストラトフォー」の記事は特に日本の立場を支持するものではない。客観的な情勢から見て、今回の輸出規制が日本の周到な計算に基づいたものであり、経済的には日本に有利に情勢が展開すると見ている。
しかしながら、「ストラトフォー」の述べるように日本にとって楽観できる方向に事態が進展するとは限らない。前回紹介した「ブルームバーグ」や「フォーリンポリシー」の記事にあるように、これを戦前の徴用工を巡る歴史問題が原因であると捉える見方は非常に多い。そして、今回の輸出規制が歴史問題に絡められると、日本は国際世論の批判にさらされ、決して日本に有利に展開しないであろう。
いまのところ、今回の日韓の対立は、香港の民主化要求運動、緊張するイラン情勢、米中貿易戦争など深刻な問題の陰に隠れた格好になっており、国際的な関心は決して高いわけではない。そのため、日韓対立を徴用工や従軍慰安婦などの歴史問題と絡めて、日本を非難する国際的な論調はいまのところ特に強いわけではない。
しかし、日韓対立が長期化すると、これを歴史問題と絡めて国際的な世論を形成する韓国のキャンペーンなどにもより、日本への非難が強まる可能性がある。前々回の記事でも紹介したように、アメリカには強力な韓国ロビーが存在する。歴史問題で日本を非難するキャンペーンを過去に何度も成功させている。侮ってはならない。
さらに、IT産業の世界的なサプライチェーンに影響が及ぶと、この問題のきっかけを作った日本への非難はさらに高まることになるはずだ。
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