クレジットスコアをバージョンアップした中国のゴマ信用
当時私は、優秀なアメリカ人のことだから、こうしたバカげた仕組みに頼ることはやめて、信用スコアから自由になった生活を送るに違いないと思っていました。ところが、何も変わらずいままと同じように続いていますから、まったく何も反省しなかったということでしょう。
それどころか、アメリカだけではなく、中国でも同じようなサービスが生まれて、中国国民の間に瞬く間に浸透することになったのです。世界的なIT企業、アリババグループが2015年にサービスを開始した芝麻(ゴマ)信用がそれです。
ゴマ信用はクレジットスコアだけではなく、検索履歴やSNSのつぶやきまで加えたビッグデータを分析した信用スコアです。この中国版信用スコアはより生活に密着した偏差値を得ることができます。しかし、その活用法に大きな懸念が広がっています。
ゴマ信用の利用者のメリットはアリババグループが提供するさまざまなサービスを享受できることです。たとえば中国ではホテルを予約するときにデポジット(保証金)を要求されることが多いのですが、このデポジットが不要になります。いわば「顔パス」が利くことが人気の元になっているのです。
では、なぜ懸念されているかというと、ゴマ信用の点数が悪いと住宅ローンの金利が上がったりします。これはアメリカのFICOスコアと同じですが、生活の多くの場面での行動がチェックされ、社会的信用がないと判断される点数になると、就職や結婚、転居などにも悪い影響があるといわれています。
日本でも2017年9月に、ゴマ信用に個人融資機能(レンディング)を加えたJスコアが、みずほ銀行とソフトバンクの共同出資の新会社によってサービスを開始しています。Jスコアは、AIによってスコアリングを行い、金利や融資金額が決めるというこれまでになかった金融サービスです。
このほかにも、ドコモレンディングサービス、LINEスコアなど、信用スコアと融資を組み合わせたサービスが続々と登場しています。
個人情報の取り扱いが異なる日米欧
こうしたなかで、個人情報をどう守るかが、今後の大きな課題になっています。そこで日米欧の個人情報の取り扱いについての違いを見てみましょう。
まずアメリカですが、資本主義の本家本元だけあって、まずは企業の自由を尊重するというのが基本的な考え方です。何でもあり、といったほうがわかりやすいでしょうか。前に述べた三大情報機関に集まる情報は、ほぼすべて売り買いできるというのが原則です。ですから、信用情報機関はいってみれば「名簿屋さん」ということになるでしょう。
それに対して個人情報の取り扱いに厳しい規制があるのがヨーロッパです。個人重視で、情報の取り扱いには慎重さが求められます。たとえば最初に紹介したGDPRという厳しい規則が設けられ、企業が個人情報を自由に売買することを禁じています。
では、日本はどうでしょうか。日本はいまのところ中庸といってよいでしょう。もともとは欧州型で、リクナビ事件でも、政府機関の個人情報保護委員会がリクナビに対して、「学生本人の同意を得ずに個人情報を企業に販売したことは個人情報保護法に違反する」として、改善勧告を出しています。
このことは評価していいでしょう。また、日本には、CIC(指定信用情報機関)、JICC(日本信用情報機構)、KSC(全国銀行個人信用情報センター)の3つの個人信用情報機関がありますが、個人の金融情報の売買は禁じられています。
しかし、アメリカのトランプ大統領のプレッシャーは強く、いつまでこの欧州型を維持できるかは不透明です。