黒田日銀の敗北宣言~金融緩和ではなくイノベーションと中曽副総裁
結論は、技術革新への期待の表明だった
しかしながら、バーナンキ前FRB議長が言うように、金融政策は決して万能薬ではありません。近年の経済成長理論などの発展をみますと、経済成長には、制度設計や経済システムといった視点が不可欠であることを認識させられます。最先端の企業がさらなるイノベーションを生み出し、生産性を引き上げることができるような制度設計が必要となっています。
出典:<中曽講演(5)>
先ほど、わが国にとってキャッチアップが引き続き重要と申し上げましたが、結局のところ、経済成長の究極のエンジンはイノベーションにほかなりません。ここで申し上げている「制度設計」とは、経済的な側面のみならず、法律や教育など、他の社会的な側面をも含んだ概念です。わが国の政府が、構造改革の継続を通じて、そうした制度設計面での役割を果たしていくことを強く願っている次第です。
出典:<中曽講演(6)>
労働生産性を上げるには、企業内の技術革新が必要です。会社での働き方の変更で、生産性(1人当たりの売上)を増やさねばならない。
(注)作業の手順変更と、機械化、情報化です
中曽講演の結論はこのイノベーションの必要でした。この結論は、日銀の金融政策では、実現が無理だということです。
ところが日銀は、デフレは貨幣現象であると間違って結論付け、この前提の上に、異次元緩和として現金の増発策を実行してきました(約200兆円)。
マネー量が増えれば、2年で物価目標2%は達成できる(消費税増税分は含まない)。2%のインフレになれば企業家は売上の増加を期待するように変わり、260万社が設備投資を増やすよう変わる。それによって、経済は成長すると説くのがリフレ論でした。
しかし実際は、2%のインフレも、2%の実質成長もなかった。
そこで、貨幣現象以外から、「人口構成と技術革新の停滞によるGDP長期停滞論」をもち出した。これが、NYでの2016年2月の中曽講演でしょう。
『流動性の罠』で、量的緩和を奨めたクルーグマンが、2016年11月に、NYタイムズ紙のコラムで認めた「人口構成と技術革新の停滞によるGDP長期停滞」なら、マネー量を増やす異次元緩和は、治療薬ではなかったのです。