「これが可能かどうかは別として」中曽副総裁の机上の空論
労働参加率を上げるという方法があるというが――
こうした潜在成長率の低下傾向は、いつまで続くのでしょうか。もし続くのであれば、これにどのように対処すればよいのでしょうか。ことの重要性について、だいたいの勘所を持っていただくために、ここで政府が目標とする2%の実質成長率を実現するに当たっての簡単な試算をお示ししたいと思います。
出典:<中曽講演(2)>
図表2では労働参加の前提が異なる2つのシナリオを示しています。ひとつは、「現状維持シナリオ」で、将来の労働参加率が現状のまま維持されると仮定しています。もうひとつは、「楽観シナリオ」です。「楽観シナリオ」では、(1)女性の労働参加率がスウェーデン並みに上昇する(88%:日本は72%)、(2)全ての健康な高齢者が、退職年齢を問わず働き続ける、との2つの仮定が設けられています。
出典:<中曽講演(3)>
このうち2つ目の仮定は、例えばわが国の80~84 歳の高齢者のうち約60%が「問題なく日常生活を送っている」と回答していることを踏まえたもので、ここでは、こうした健康な高齢者が皆働き続けることを仮定しています。
出典:<中曽講演(4)>
【実質2%成長に必要な労働生産性の上昇と就業者数の増加】
1990~14実績 | 2015~40目標 | 1990~14米国 | |
---|---|---|---|
実質GDP成長率 | 1.1% | 2.0% | 2.4% |
労働生産性上昇率 | 0.9% | 1.6% | 1.5% |
就業者数増加率 | 0.1% | 0.4% | 0.9% |
人口構成からの傾向 | -1.0% |
日銀が、2015年から2040年に、実質GDP成長で2%を実現するために必要としている目標値は、
- 労働生産性の上昇で年率1.6%
- 就業者の増加で年率0.4%
です。
就業者で0.4%の増加を今後25年続けると、〔1.004の25乗=1.10です。2015年時点での就業者数は6360万人であり、人口に対する就業率(働く人の割合)は50%です。
現在の就業者6360万人を1.1倍にするということは、6996万人です。しかし2040年の人口は、約2000万人(16%)減って、1億726万人です(国立人口問題研究所の推計)。6人が5人になるイメージです。現在30万人の都市が、人口では25万人に減ります。
現在の就業率50%のままなら働く人は人口減と同じ割合で減り、5363万人(84%)になります。この中で就業人口を6996万人へと10%増やすことは、従来は働きうことをやめていた人を、働くようにして1367万人増やさねばならない。
- 女性の就業率72%を、ほぼ全員労働のスウェーデン並みの82%に高め、
- 65歳では退職せず、70代も働き続け、
- 80歳から84歳までで健康な人(約60%)が働き続ける
ことが必要です。
(注)戦争のときの、国家総動員令のようですね
以上によって実現するのが、今後25年間人口が平均で70万人減って行く中で、就業者を6996万(現在の+10%)に増やすことです。これが年率で0.4%の就業を増やすことの内容です。
0.4%はとても少ないように見えますが、実数で言えば、
- 年率70万人の人口減の中で、
- 働く人の実数を25万人増やし続ける
ということです。
生活イメージで言うと、
- 健康な男性は、70代はもちろん、84歳まで働き続けること、
- 女性の15歳以上64歳までは、82%の人が働くこと
です。
これが、実は、政府が言い始めた「1億総活躍社会」です。ただしこれによって実現するのは、就業人口の年率でわずか0.4%(約25万人/年)の増加でしかない。
講演した中曽副総裁も「これが可能かどうかは別として(机上の計算だけをすれば)」と加えています。実現しないという含意です。
以上のように、人口が減る中で就業者を増やした上に、1人当たりの労働生産性を年率1.6%(25年で1.49倍)増やさねば、実質GDPの2%成長にはなりません。
1994年から2015年までの20年間、年率の労働生産性の上昇は0.9%でした。00年代には多少高かったので、2010年代はほぼ0.5%付近に低下しています(日本生産性本部)。
これを、どうやって政府・日銀が、毎年1.6%高めるのか?しかも、向こう25年間、毎年です。