最低賃金が高いと、スキルの低い人が排除される
最低賃金の引き上げは他にも問題を引き起こす。
アメリカのケースだが、リバータリアニズム系のシンクタンク組織であるケイトー研究所のトーマス・ファイレイ氏は、「最低賃金を引き上げる」ことが逆に貧困層を追い詰める結果になっていると発表している。
アメリカの貧困層の多くは黒人やヒスパニック系なのだが、彼らが失業するのは、最低賃金が引き上げられた結果、賃金に見合わないスキルを持った人間が自然に雇用から排除されるようになるからだという。
つまり、賃金が低いままだと大したスキルがない人も雇えていたのだが、最低賃金が上がることによって有能な人を厳選して雇用し「残りを排除する」という現象が現場で起きていた。
最低賃金が高めに設定されると、最初から優秀な人を雇って効率を優先しないと利益が出せない。その結果、スキルの高い人しか雇わなくなる。
仕事に向いていない人、社会経験も実務経験も不足している人、年齢的にパフォーマンスが発揮できない人、育児と仕事の両立が難しいシングルマザーなどは、最低賃金の引き上げによってかなり厳しい状況に追いやられる。
つまりアンダークラスを構成している人たちが、最低賃金の引き上げで恩恵を受けるのではなく不利になってしまうのである。
実際にアメリカではそうなったと、トーマス・ファイレイ氏は報告している。
最低賃金を引き上げたら、アンダークラスが救われるわけではなかった。むしろ、最低賃金の引き上げによって、救われることが想定されていたはずの人に仕事が回ってこなくなるのだ。
トーマス・ファイレイ氏は、「最低賃金の引き上げと犯罪の増加には、直接的な因果関係があることも明らかになった」としている。
窮地に立たされた「若年層の黒人男性」
アメリカでは、最低賃金の引き上げによって最も悪影響を受けたのが「若年層の黒人男性」だった。最低賃金の引き上げが、むしろ社会の最も弱い層を仕事から排除し、無職に追いやっていたのだ。
アメリカの黒人層の生活環境は公民権運動以後の1970年代から大きく向上したと言われている。バラック・オバマ前政権も黒人だった。
しかし、実際には相変わらずアメリカ社会の底辺に取り残されて這い上がれない人が多く、それが黒人層の貧困と失業に結びついている。
貧困と失業は犯罪を招く。そのため、黒人層が多く住む地区は治安が悪いことが多い。しかも銃が蔓延しているので、ちょっとした諍いがすぐに銃撃戦という結果となる。
こうした地区をパトロールする警察官の過剰行動が問題になっているのだが、人種間の軋轢と共に油断したら自分たちも撃たれるという緊迫した状況があるからだ。