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消えたトランプ相場【フィスコ・コラム】

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トランプ米大統領の熱烈な支持者のなかに、世界的な新型コロナウイルスの蔓延を反対勢力による仕業と信じる人たちがいるようです。大統領選を控えているため、余計に「陰謀論」が飛び交うのかもしれません。


2月下旬から1カ月あまりの間、金融市場にカテゴリー5級の暴風雨が吹き荒れました。NYダウは2月12日に過去最高値となる29551ドルを付けた後、急激な下げに転じます。連邦準備制度理事会(FRB)は前倒しで開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で緩和策を打ち出したものの、逆効果で1日に3000ドル近く下げた日もあり、3月20日にはトランプ就任時の19827ドルをとうとう割り込んでしまいました。


トランプ氏といえば歴代のどの大統領よりも株価を気にかけ、そして強気相場を維持していることが誇りだったはず。ダウはその後、トランプ政権による過去最大級の経済対策を受けすぐに20000ドル台に持ち直しました。が、1カ月あまりで1万ドルもの暴落を記録した狂乱の相場が仮に「誰か」の仕業だったとしたら、「トランプ相場」の終えんは、以前のアメリカに引き戻すという狙いと解釈できます。


トランプ支持者がそのように考えるのも、無理はありません。そもそもウイルス自体、原因や発生源がいまだ特定されていないほか、世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言の判断の遅れも検証されていません。2001年9月の同時多発テロの際、当時「国難」に対峙したブッシュ大統領と、首謀者とされるビンラディン家との石油利権をめぐる深いつながりが映画「華氏911」で指摘された経緯もあります。


シンガーソングライター、ボブ・ディランがこの4月に発表した「Murder Most Foul」(最も卑劣な殺人)もコロナ陰謀説に一役買っているかもしれません。2016年のノーベル文学賞の受賞後初の作品として注目された17分間の大作は、ジョン・F・ケネディ暗殺事件をテーマとした鎮魂歌です。なぜこのタイミングなのか、いつ録音されたのかは不明で、謎めいています。


だからといって、「誰か」がウイルスを使って人類滅亡のような状況を作り出すでしょうか。第一、未曾有(みぞう)の事件・事故、災害が発生した場合、時の権力者、この場合トランプ氏の支持率は必然的に上昇します。また、史上最高値に達した株価が暴落すれば、買い遅れた投資家が新たに株式を買う、あるいは買い増すチャンスになります。これもトランプ氏にとって、長い目で見れば有利になるはずです。


「陰謀論」には時として引き付けられますが、単なる憶測にすぎないでしょう。もともと金融市場はコロナ禍を軽視、楽観視しすぎていたように思います。また、パウエルFRB議長が2月の議会証言でコロナ禍の評価を先送りした点もわかりません。幸い、アメリカは当初の予想よりも早期にピークアウトする兆しが出ており、相場も一時期に比べれば落ち着きを取り戻しつつあります。


米大統領選の指名争いで民主党のサンダース上院議員が撤退を表明すると、規制の回避を好感した投資家の買いで株価は上昇しています。トランプ氏は本選に向け、どこまで指数を回復させられるでしょうか。

(吉池 威)

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