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実は日本の勝利?トランプ「利益の90%は米国」発言の真相。対米5500億ドル投資を足がかりに米製造業支配へ=勝又壽良

日本政府と企業が主導する対米5500億ドルの巨額投資が、米国の製造業再建を支える柱となる見通しである。トランプ前大統領が「誰も可能だとは思っていなかった」と語ったこの枠組みは、半導体や鉄鋼、自動車、AIなど9業種にわたり、米経済の「心臓部」への進出を意味する。一方で、トランプ氏が「利益の90%は米国が受け取る」と発言したことが、日本国内に波紋を広げた。今回の投資は何を意味し、日本は何を狙い、どのようなリスクを抱えるのか。日米経済の新たな関係と投資交渉の舞台裏を読み解く。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

関税15%+対米5,500億ドル投資で決着

日米関税交渉が妥結した。対日関税25%が、自動車を含めて15%へ引下げられる一方、新たに対米投資5,500億ドルを実施する。

関税引下げ条件として、大型対米投資が目玉になった。この提案は、日本側が行なったものである。「関税より投資」が、米国の貿易収支改善に寄与すると主張し続けた結果だ。日米のサプライチェーン強化に資し、日米経済安全保障強化に貢献するという狙いである。

この構想は、日本独自のものである。関税交渉当時、米国官僚はまったく聞く耳持たぬ状況で、「関税引下げ条件=輸入増大」の一本槍であった。これを辛抱強く説得して「関税より投資」構想を納得させ、最後はトランプ大統領の決済を得た。

以上の交渉プロセスは、赤沢経済再生担当相がNHK(7月26日)で明かにしている。赤沢氏は、今回の合意によって「失われた30年を取り戻して余りある、劇的な経済成長が可能」と胸を張った。

5500億ドル投資の意味

トランプ氏は7月24日、「日本政府は、いわばシードマネー(初期投資資金=正しくは基盤投資の共同出資金)を出す。誰もこれらが可能だとは思っていなかった。そして、これは本当に素晴らしいことだ」と喜色満面のコメントを出した。

こうして、日米双方が交渉結果を歓迎する「ウイン・ウイン」である。確かに、日本の主要輸出産業の自動車が、これまでの関税25%が15%引き上げで済めば、中長期的にコスト切り下げで乗りきれる状況だ。

日本は、米国から25%関税を通告されたとき、悲観的見通しに支配された。だが、15%に引き下げられてムードは一気に楽観論へ転換した。

新たに、米国へ5,500億ドルの直接投資が行なわれる。業種は、次の9業種だ。詳細については後で触れたい。

1)半導体
2)医薬品
3)鉄鋼
4)造船
5)重要鉱物
6)航空
7)エネルギー
8)自動車
9)AI

24年の米貿易赤字1兆2,000億ドル(約170兆円)のうち、鉄鋼・自動車・機械・電気機器・医薬品が占める割合は合計77.5%だった。トランプ政権が、こうした貿易赤字業種の立直しには、日本から5,500億ドル投資を仰ぐほかないとの結論であろう。単純な比較論だが、年間1兆2,000億ドルの貿易赤字の77%は製造業である。今回の日本の9業種は、まさにこの「心臓部」に当る。

日本企業が、期待通りの成果を上げる段階になれば、米国の貿易赤字はかなり減って貿易収支均衡化への道筋がみえる可能性も出てくるであろう。トランプ氏は、日本提案に乗って関税よりも投資という構想の重要性に気づいた理由であろう。赤沢氏によれば、米国内ユーザーからは、早くも「日本製品を全量買い取りたい」という気の早い申出でもあるほどだ。

米国の輸入赤字業種には、鉄鋼が入っている。日鉄のUSスチール合併が、米国鉄鋼業の近代化に不可欠という文脈のなかで承認されたことを裏付けるものだ。これが、日本企業の巨額直接投資を必要とする端的な例であろう。「死に体」の米国製造立直しには、日本の9業種が必要であることを明確にしている。

日本企業が、大挙して米国へ「逆上陸」することは、今回が初めてである。日本が、「黒船来襲」と怯えたころとは、嘘のような時代になった。これは、日本にとって経済のみならず安全保障面における大きな一歩となろう。日本が、米国にとって経済面で不可欠の存在になったからだ。

日米経済が「一体化」することは、米国製造業の弱点を日本企業が補うことを意味する。この裏には、日本企業の技術力が過去30年間、格段の進歩を遂げたことを示す。GDP成長率では、「失われた30年間」でも、技術は磨かれ続けていたのだ。

Next: 実はちゃんとウィン・ウィン?日本が米国製造業救済役に

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