日米間の関税合意に暗雲が立ち込めています。米国産米の輸入増を巡る口約束の履行問題が浮上し、自動車関税の15%引き下げ合意も宙に浮いた状態です。日本の最大輸出品目である自動車への27.5%関税が継続すれば、企業業績への打撃は避けられません。一方で、農水族のトップである森山幹事長はコメ輸入に強硬に反対し、石破総理との板挟み状態が続いています。「コメ農家を守るか、自動車を守るか」――日本経済全体を揺るがしかねない政治的な対立が、株式市場に新たなリスクをもたらしています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年9月3日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
日経平均、過去最高値からどう動く?
関税合意などのプラス材料を追い風に、一時4万3,000円台の最高値を付けた日経平均株価が、この週明けには一時4万2,000円を割りました。
米国発のAI関連の売りが主導と言いますが、赤沢大臣の訪米急遽取りやめから不穏な風が吹き始めています。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)
政権幹部、特に農水族が米国からのコメ輸入を認めない姿勢を見せたことから、合意文書の作成、関税引き下げの大統領令を得られるのか、改めて不透明になってきました。
実は関税合意は確定していなかった
市場の不安を誘ったのが、赤沢大臣の訪米が突然取り止めになったことでした。一部の報道によれば、日本が口約束していた米国産米の輸入増を拒否したためと言われます。米国にしてみれば「話が違う」となり、大統領令で自動車も含めた関税を15%に引き下げる「一筆」を書かせることも、合意文書を作成することも行き詰まったと見られました。
幸い、29日には米国連邦高裁が相互関税は違法、との判決を下していたので、相互関税自体が否定されることへの期待があり、市場を支えた面はありますが、相互関税が仮に否定されたとしても、別の法的枠組みで課せられた自動車、その部品への25%上乗せや、鉄鋼への50%関税まで否定されるわけではありません。
日本にとっては米国向け輸出の3割を占める最大品目「自動車」およびその部品への関税がいつまでも27.5%では、その影響が大きくなります。財務省の「法人企業統計」によれば、6月末の利益剰余金(いわゆる内部留保)が近年では初めて減少を見せ、自動車などが関税の負担による収益圧迫を、内部留保の取り崩しで賄った節が見られますが、これをいつまでも続けるわけにはいきません。
赤沢大臣の説明で、自動車関税も含めて、すべて15%に収めるよう、米国と確認したといいながら、この口約束が進んでいないことがわかり、市場に動揺が走りました。ホワイトハウスからは「日本はコメが足りないのに、米国産米を買わない」との不満が表明されています。
この「約束不履行」のために自動車やその他の関税がまた引き上げられれば、市場は混乱します。
日米間に依然として齟齬
ここまでの議論を見ると、日米間には少なくとも2つの関税合意上の「齟齬」が見られます。
1つがこのコメの件で、日本は小泉農水大臣の説明では、関税ゼロのミニマムアクセス枠の中で、米国産米の輸入を75%増やすと言っていますが、米国はこれを輸入増とは見ていないことになります。この認識齟齬を解消するか、米国にもわかる形で輸入増を表明しなければなりません。






