「現政権での功績を残したい」チリの事情は
チリでは、現バチェレ政権の任期が3月11日に迫っていた。日本には、チリ開催なら「先送り論を封じ込められる」(政府関係者)との算段があったという。
現政権での功績を残したいチリのムニョス外相は2月23日、「署名式には世界中のメディアが来る。日本に感謝する」と、茂木大臣室を訪れて満面の笑みで礼を伝えたという。茂木氏は「チリのコミットに感謝する」と応じたとのことだ。
そして、ムニョス氏は、米大陸では一目置かれるベテラン外交官(国連安保理議長の経験も)である。チリとカナダはリベラル政権で、ムニョス氏はフリーランド・カナダ外相とも気脈を通じる。
日本には、ムニョス氏にカナダの説得役を任せることで、カナダが早期に署名する可能性が高まるという考えがあった。
11カ国署名の決定打「メキシコへの働き掛け」
茂木氏は1月上旬にメキシコ・グアハルド経済相に対し「このままではカナダが遅延戦略をとるだけだ。TPPでは日本と共同歩調を取ってほしい」と求めたという。
メキシコとカナダは、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で対米共闘する同志である。
日本は、この関係を「分断」する作戦に出たということ。TPP交渉を進めた日本に恩義があるグアハルド氏は、日本との連携を約束した。
そして、1月22日から都内で最後の首席交渉官会合が開かれた。署名を渋るカナダに対し、日本の交渉官は「明日は10カ国で署名日を合意したい」とカナダ外しを提案。メキシコも即座に「10カ国もやむを得ない」と応じたという。
結果、孤立したカナダはようやく署名する意思を示した。
日本の外交が奏功した事例
本件は、TPPの署名に関して、外交を通じて日本の狙い通りになった事例である。
国会における野党の役割とは何か。私は、森友問題よりも重要な、米国の保護主義(鉄鋼・アルミの輸入制限等)や北朝鮮の拉致問題への対応に関する議論の活発化を望む。
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』(2018年3月12日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による