バイデン政権は「インフレが民主党の支持率を下げている」として、FRBに圧力をかけて金融引き締めを前倒しで進めようとしています。そうなれば、米国の住宅バブル崩壊や新興国経済の悪化などを引き起こしかねません。世界経済は綱渡りの1年となりそうです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年1月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
バイデンの最優先課題は「インフレ抑制」
2022年はいきなりダウが最高値を更新するなど、株式市場が好調にスタートした米国。しかし5日にはFOMC議事要旨で当局がインフレ警戒を強め、引き締め前倒しの姿勢が見られたことから、ハイテク株を中心に調整を迫られました。
米国では秋に中間選挙が行われますが、そこでは民主党の敗北が予想されています。
このため、バイデン政権は支持率圧迫要因となっているインフレの抑制を最優先課題に挙げました。そして、何としても中間選挙前にその成果を挙げたいと、FRB(連邦準備制度理事会)に強く圧力をかけています。
FRBがこれをうまくさばけるか。5日の米国市場は、当局のインフレ抑制策如何で新年の米国経済、そして世界経済に大きなリスクとなる可能性を示唆したことになります。
一時的ではなかった米国のインフレ
米国でのインフレの高進はFRBにとっても大きな誤算となりました。
FRBとしては大株主の国際金融資本の意向を考え、金融緩和の長期化を目論んでいたはずです。そして政権の利害も一致すると考えていました。現に民主党政権に近いブレイナード理事が中心になって緩和継続を主張していました。
このため、インフレ率の高進についても、当初は「一過性(transit)」と評価していました。コロナ規制の緩和で需要が一時的に集中することが、中古車や航空運賃の高騰につながったと見ていました。
そしてこれらも21年春ごろがピークでその後は落ち着くと見ていたのが、夏を過ぎても一巡せず、むしろ加速しました。さすがにパウエル議長も「一過性」の文言は適切ではないと、長期化を認めました。
実際、規制緩和による需要の集中以外にも、原油など資源価格の高騰が長引き、国際協調による「戦略備蓄放出」にも拘わらず、原油価格はまた上昇しています。
しかも半導体などの供給不足も長期化し、いまだに解消の目途はたっていません。