「株価が均衡価格に収斂する」というのは勘違いだった?
実のところ、この金融工学はかなりの割合で機能する。市場は、ある意味「ボックスの中でウロウロしている期間」が長い。
しかし、事態は急変する。ある時、市場はボックスを想定以上に極度に突き抜ける瞬間がある。想定していた以上に、株価が行き過ぎる。
そして、いったんボックスを極度に外れた株価は均衡価格に収斂しない。
滅多に起きないことなのだが、それでも突発的に過去の膨大なデータを完全に逸脱して「株価が均衡価格に収斂しない」という事件が起きて理論の破綻が起きるのだ。
LTCMの破綻の原因となった1997年のアジア通貨危機と1998年のロシアの債務不履行は、まさに「理論の破綻」を呼び込む経済的事件であり、「株価が均衡価格に収斂する」と考えていたLTCMにとって致命傷となった。
「株価が均衡価格に収斂する」というのは、間違いだったのだ。
数理系トレーダー上がりの大学教授ナシーム・ニコラス・タレブは、これを著書『まぐれー投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』の中で、このような「たとえ話」で説明している。
先ごろ私はブッシュ大統領の寿命について綿密な統計的検証を行った。58年間、21,000件近いサンプルにわたって、彼は一度たりとも死んだことはなかった。それゆえ私は、彼が高い確率で不死身であると断じるものである。
出典:『まぐれー投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』(著:ナシーム・ニコラス・タレブ/刊:ダイヤモンド社)
人は誰でも死ぬのだが、死ぬまでは死んでいない。
しかし、今まで死んでいなかったからこれからも死なないというのは事実ではない。
「株価が均衡価格に収斂する」というのは、「今までずっと均衡価格に収斂したから、これからもそうなる」と勘違いしたに過ぎない……と言うのがナシーム・ニコラス・タレブの見立てだった。