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ロシア軍は報道されているほど負けてはいない。本当の戦況とこれから起こる新たな危機、「核兵器使用」が杞憂に終わるワケ=高島康司

最近の戦況

こうした情報源に基づいた戦況分析だが、前述のどのチャンネルやサイトも分析結果はほぼ同じである。サイトでウクライナ寄り、ロシア寄りと分析結果が大きく異なるわけではない。もちろんニュアンスの若干の相違はあるものの、基本的には同じ内容である。

こうした点を踏まえると、最近の戦況は次のような状態になっている。

<概況>

9月13日にハリキュウ州全域を奪還し、ドネツク州のリマンを包囲して同市を奪還したウクライナ軍だったが、10月の後半からその勢いは止まっている。南部ヘルソン州北部などで戦略的に重要性の低い村々などの奪還は続いているものの、ウクライナ全域の戦況はいわば膠着状態にある。ウクライナ軍は各地で反転攻勢に出ているものの、ロシア軍に撃退されてことが多い。

他方ロシア軍は、「部分的動員令」によって動員された兵士が次第に前線に投入され、ロシア軍が強化されつつある。まだ領土を拡大するところまではいっていないが、ウクライナ軍への攻勢は次第に激しくなっている。

また、ロシア軍の連日の無人機攻撃により、ウクライナの発電所の55%程度が破壊され、電力供給が困難なエリアが拡大している。これは鉄道網に影響があるため、軍の移動に支障が出て来る。

さらに11月1日、ロシアの「ジョーカー」と名乗るハッカーグループは、アメリカ軍とウクライナ軍が共同で運用している「デルタ」というシステムへのハッキングに成功した。「デルタ」には展開しているすべてのウクライナ軍部隊のデータ、さらには把握したロシア軍のデータも保存されている。「デルタ」のハッキングで、ウクライナ軍の機密情報はロシア軍に把握されてしまった可能性がある。

<最近の戦況:10月25日以降>

北部:リマン周辺
ロシア軍はリマンの反転攻勢を強めているも、奪還には至っていに。防戦したウクライナ軍は軍用車両7両と兵士30人を失う。またクペンスク東のロシア軍に向けてウクライナ軍は攻撃したが、撃退された。ウクライナ軍は、軍用車両7両と兵士150人を失う。さらにウクライナ軍はロシアに占拠されれいるドネツクの奪還を目指し、クーペンスク付近に軍事拠点を構築した。長い冬の戦闘に備えている。

東部:バフムートとマリンカ
バフムートはウクライナ軍に占領されている町だが、ロシア軍が奪還すべく激しい戦闘が行われ、ロシア軍は進撃している。ロシア軍は同市の郊外に迫りつつあるも、まだ奪還には至っていない。またロシア軍は、ドネツク州の町、マリンカに進撃し一部を占領した。ウクライナ軍との間で市街戦を展開。さらに、マリンカの南方にある都市、ウグラダを包囲しつつある。

南部:ヘルソンとサボリージャ
ウクライナ軍はヘルソン州北部で反転攻勢に出ているが、ロシア軍に撃退されている。この地域全体としては大きな変化がない。またヘルソン州北西部のムーロヴァという町では激しい戦闘が行われている。ウクライナ軍は撃退され、この町を占拠できていない。ウクライナ軍は兵士120人、軍用車両70台を失う。またロシア軍は、サボリージャ方面への展開を強化し、ノボポルとフレミシュフカという2つの重要な町を制圧した。ウクライナ側の情報によると、サボリージャ原子力発電所が設備の技術的な不具合により、首都キーウへの電力供給を停止している。

ウクライナ軍とロシア軍の損害

戦況の説明はウクライナの細かな地名が数多く出てくるので、地図なしでは状況を把握することは困難だ。細かな点は省いてできるだけ概要が分かるように書いたが、それでもウクライナ軍に大敗を喫し、ロシア軍が退却を余儀無くされているという状況にはないことだけは分かると思う。むしろ反対に、ロシア軍が徐々に攻勢に転じており、膠着状態だった戦況が変化しつつあるようだ。

そして、次に注目すべきなのは、ウクライナ軍とロシア軍双方の損害である。ウクライナ国防省、ロシア国防省とも自軍の損害はほとんど公表していないが、相手の損害は発表している。以下は11月1日の最新データだ。

<ウクライナ軍の累計損失(ロシア国防省発表)>

死傷者    11万575人(9月22日のデータ)
航空機    329機
ヘリコプター 167機
無人機    2,402機
対空ミサイル 384発
戦車     6,233両
多連装ロケットランチャー 881台
火砲     3,544門
軍用車両   6,937両 

<ロシア軍の累計損失(ウクライナ国防省発表)>

死傷者  7万2,670人
航空機  276機
ヘリコプター 257機
無人機  1,415機
防空システム 197台
戦車   2,698両
多連装ロケットランチャー 383台
火砲   1,730門
軍用車両 5,501両
巡航ミサイル 397発
船舶   16隻

両者を比較すると一目瞭然だが、ウクライナ軍の損失の方がロシア軍を約1.5倍程度上回っている。ロシア国防省が発表したウクライナ軍の死傷者のデータで入手可能なのは9月22日のものだったので、11月3日現在であれば死傷者はもっと増え、12万人程度に達していてもおかしくないと思われる。

もちろん、これらは国防省のいわば大本営発表のデータだ。相手の損害の大きさを強調する傾向はあるだろう。しかしそれでも、ウクライナ軍の損失の方が多いという現状は変わらないのではないかと思う。

Next: ロシアの核兵器使用は杞憂?苦境に立つウクライナ軍と今後の危機

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