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始まったロシア軍の全面攻勢、プーチンが見逃さなかった4つの好機とは?勝利宣言したら欧米はどうするのか=高島康司

第二次世界大戦とは大きく異なる状況

しかし、ロシア軍の全面攻勢が第二次世界大戦と同じような状況なのかというと、本質的に異なっているようだ。

ダグラス・マクレガー元大佐は、ウクライナ戦争では衛星や最先端のIT機器、そしてドローンが導入されているので、かつては考えられなかった水準での監視と偵察ができるようになった。敵の陣地の場所、そして敵の細かな動きはすべて把握できる。

そのため、かなりの遠距離からロケット砲や大砲で、相手を精確に狙う攻撃ができるようになった。現在、ロシア軍もウクライナ軍も死傷者の多くは、銃撃戦ではなく砲撃の犠牲者だ。約70%程度がそうだろとマクレガー元大佐は言う。

かつて第二次世界大戦では、ナチスドイツの「電撃戦」が有名であった。「電撃戦」とは、戦車の機甲師団によって敵陣地を一気に叩き、占領してしまう戦法だ。だが、高度な監視技術によって相互の動きが分かるので、機甲師団の動きは「電撃戦」が始まる前に相手に分かってしまい、こちらが攻撃する前に相手からやられてしまう。

したがって、想定されるロシア軍の全面攻勢はナチスドイツのような「電撃戦」にはならない。遠距離からの砲撃回数の飛躍的な増大となる。砲撃で敵が弱まったタイミングを見て、戦車と歩兵で相手の陣地を攻めることになる。

ロシア軍はいま、通常、攻撃の準備に必要とされる措置を取り始めている。衛星画像の解析から、ロシアはごく最近、車両や物資の集積、基地の建設や再開、鉄道や航空便の増加など、攻撃の準備に必要とされる措置を取り始めていることが分かった。

新たな軍事拠点を少なくとも2つ建設している。1つは、南西部の都市、「クルスク」の東にある「ポストヤリイ・ドヴォリ」で、もう1つはやはり南西部の都市、「ボロネジ」に近い「ポゴノヴォ」だ。今後、新たな拠点が発見され、兵員や車両の数、攻撃経路が明らかになるかどうかが注目されている。また、ベラルーシとウクライナの国境にも、10万人程度のロシア軍部隊が待機している。

ロシア軍が全面攻勢の出るには絶好のタイミング

このように、すでにロシア軍は全面攻勢のための拠点を構築しており、徐々に攻勢への動きを速めているように見える。実は、すでに始まっているこの全面攻勢は、ロシアにとっては絶好のタイミングで実行されるようだ。

それは、以下の4つのタイミングだ。

<1:欧米の戦車が届くのは早くて3月後半>

1つはドイツの「レポポルト2」やイギリスの「チャレンジャー2」、そしてアメリカの「M1エイブラムス」などの欧米の主力戦車の供与が、どんなに早くても3月後半になることが、はっきりしたからである。いまドイツとイギリスでウクライナ軍の戦車要員の訓練が行われている。

<2:欧米の弾薬の在庫切れ>

アメリカを中心にNATO諸国は、兵器や弾薬のさらなる供給を決定しているものの、在庫不足に直面している。いま大急ぎでアメリカやドイツ、フランスの軍需企業がフル稼働で生産しているが、供与を約束した兵器の生産が完了するのは、来年になる。

<3:「スターリンク」の制限>

いま、「スペースX社」のイーロン・マスクは、人工衛星経由で通信できる「スターリンク」をウクライナに供与している。「スターリンク」はウクライナ軍の通信の生命線だ。しかし、政治交渉による即時停戦を主張していたイーロン・マスクは、「スターリンク」の軍事利用について批判的だった。そこでマスクは、「スターリンク」をドローンの操作に利用できないように制限した。ドローンは、敵の監視と偵察にはなくてはならない兵器である。これが使えなくなると、ウクライナ軍にとっては大きな打撃となる。

<4:「ノードストリーム」を米海軍が破壊>

つい最近、ピューリッツアー賞受賞の調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュは、昨年9月に爆破されたロシアとドイツを結ぶパイプライン、「ノードストリーム」は、米海軍特殊部隊の極秘作戦で破壊されたことを突き止めた。これは大統領命令で実行されたものだった。

この情報は記事になったばかりなのでいまのところ政治的な影響は限定的だが、これからアメリカとドイツの関係がぎくしゃくし、ウクライナ支援の足並みがそろわなくなる恐れがある。これは、かなり大きな問題に発展する可能性がある。

これを見ると分かるが、ウクライナ軍は欧米の武器支援がいまだに届かず、また「スターリンク」の軍事利用が制限された状況で、少なくとも3月後半まで戦わなければならない。これはウクライナ軍によって非常に不利な情勢だが、ロシア軍にとっては願ってもない攻撃のタイミングになる。

Next: ロシア軍の勝利を示唆する発言も。政治交渉を求める声が多いが…

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