いよいよウクライナにおけるロシア軍の全面攻勢が始まったようだ。ただこれは、ウクライナにすこぶる不利なタイミングで始まった。これからロシア軍は優勢になり、この戦争に勝利する方向に向かうのかもしれない。すると、危機は一層深刻になるだろう。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2023年2月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ウクライナ優勢という「嘘」
ウクライナ戦争におけるロシア軍の全面攻勢について解説したい。
『 このメルマガ このメルマガ 』では、11月頃からトランプ政権の国防長官上級顧問であったダグラス・マクレガー元大佐の詳細な戦況分析を紹介してきた。一貫してマクレガー元大佐は、冬季に地面が凍土化するタイミングでロシア軍の全面攻勢はあると予測していた。マクレガー元大佐によると、ロシア軍は70万人の兵士を動員しており、そのうちすでに30万人が前線に配備されているという。
また、西側のメディアでは、ロシア軍は兵力不足、士気の低下、そして兵器不足に悩まされ、ロシア軍の勢いは急速に落ち、ウクライナの勝利が確定するのは時間の問題だとする報道が多かった。
しかしマクレガー元大佐は、ロシア軍は毎日6万発を越る砲弾とロケットを発射しており、ロシアの軍需産業は24時間体制で戦車などの兵器を製造している。兵器不足は実質的にないとしていた。また、すでに70万人の予備役経験者の動員を行っており、兵力不足に陥っているわけでもないとしていた。
むしろ、ウクライナ軍は兵力不足と増大する死傷者に悩まされており、ロシア軍の全面攻勢が始まるとウクライナ軍は非常に厳しい状況になり、戦争に敗北する可能性があると言っていた。
始まった可能性の高いロシア軍の全面攻勢
このような戦況分析をしているマクレガー元大佐も、いつロシア軍の全面攻勢が行われるのかははっきりとは予測できないとしていた。2月の後半から3月の前半には始まるのではないかという見通しだった。
そのような中、いよいよロシア軍の全面攻勢が始まった可能性が高いとする情報が多くなっている。
まず13日、NATOのストルテンベルグ事務総長は、懸念されていたウクライナでのロシアの新たな大規模攻撃がすでに始まっていると述べ、NATOは枯渇しつつある弾薬の備蓄目標を引き上げると表明した。
記者団に対し「全面侵攻開始から約1年が経過したが、ロシアのプーチン大統領が和平に向けて準備している様子は全くなく、新たな攻勢をかけている」とし、「プーチン大統領およびロシアはウクライナをなお支配しようとしている」と指摘。「ロシアがより多くの軍隊、兵器、能力をどのように送るかを確認する」とした。
このストルテンベルグ事務総長の発言を裏付けるように、北部、ハリキウ州の「リマン」や「イジューム」で戦闘が激化している。
しかし、やはりなんと言っても非常に激しい戦闘になっているのは、東部、ドネツク州の「バフムト」である。「バフムト」は鉄道と高速道路が交差する交通の要衝なので、ロシア軍がここを占拠すると、ドネツク州の「クラマトルスク」と「スロヴィヤンスク」という2つの大きな都市を制圧する拠点になる。この2つの都市が占拠された段階で、ロシア軍によるドネツク州全体の掌握が完了することになる。プーチン大統領は、3月までにドネツク州を占拠せよと命令している。
いまロシア軍は「バフムト」近郊の村、「クラスナホラ」を占拠し、「バフムト」を包囲しつつある。またウクライナ軍は「バフムト」で戦闘を続けているものの、町のすべてのエリアがロシア軍の大砲やロケット砲の射程距離の範囲内にあり、連日激しい攻撃が続いている。
ところで、いま「TikTok」には、ロシア軍、ウクライナ軍双方の兵士が前線の実に生々しい戦闘の状況を伝える動画がたくさんアップされている。中には、戦闘シーンのライブ中継もある。
中でも特に多いのが、「バフムト」の戦闘を伝える動画だ。ウクライナ軍の国際有志部隊にはアメリカ兵も参加し、戦闘のすさまじさを証言している。証言は英語なので分かりやすい。彼らの多くは、アフガン、イラク、シリアと米軍で転戦してきたベテラン兵だ。そうした彼らの共通した証言だが、ウクライナ戦争はこれまで体験してきたどの戦場とも比べられないほど、激しく残虐だという。
米軍が参加したアフガンのもっとも激しい戦闘では、35人の米兵が死亡した。また、イラク戦争のもっとも激しい戦闘は、2004年3月から約半年間続いた「ファルージヤの戦い」だったが、そこでは95人の米兵が死亡した。ところが、いま自分が戦っている「バフムト」では、1つの部隊だけで1日、95人が死んでいる。これはまさに、「肉挽き器」という言葉がぴったりの状況だという。
また、これと同じような証言は数々の戦場を経験してきたジャーナリストからも出ている。アフガン、イラク、シリアと自分が報道したどの戦場よりも残虐だという。ノルマンディーにおける、連合軍とナチスドイツとの戦いの激しさに匹敵するのではないかと言っている。