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エムスリー株価ピークから80%下落、いまは買い時か?暴落の理由と今後の成長シナリオ、長期投資家はどう判断すべきか=佐々木悠

未来の成長ストーリーを考える

エムスリーの今後の成長戦略は、簡単な言葉で表現すると、

昔の事業の成長鈍化を、新しい事業でカバーする」です。会社説明資料にはより具体的な数字が記載されています。

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出典:エムスリー 24年3月期第二四半期 会社説明資料

2010年から続くサービスのCAGR(年平均成長率)が10%であるのに対し、2015〜2022に最近始めた新規事業のCAGRが20%の試算です。

そして、2010年時点の提供サービスはMR君やアメリカ版MR君などです。一方で2015〜2022年の間に始めた事業が、訪問介護や病院経営コンサルなどです。

これら新規事業が、MR君の成長鈍化をカバーすることで成長を目指しているのです。

そして、エムスリーの新規事業は、大半がM&Aによるものです。

2022年以降の新規事業として、既存事業の1/4を上乗せすることを目指していますが、これにはM&Aによる事業拡大が必須です。

実際に、23年12月現在、福利厚生代行のベネフィットワンを買収しようとしています。今後もこのような動きが加速するものと考えます。

エムスリーは今こそ買いか?

ここまで、エムスリーの成長の要因と今後の成長戦略について分析してきました。最後に株価に対する評価を考えてみましょう。

エムスリー<2413> 週足(SBI証券提供)

エムスリー<2413> 週足(SBI証券提供)

23年12月時点のPERは30倍と、かなりお手頃な水準に落ち着きました。

まず気をつけて欲しいのは、「コロナ禍のように1年で3倍になる!」といった期待はしないことです。コロナというビッグサプライズによる過剰な期待であり、むしろその反動がきています。

そして、今から投資した場合は、従来のエムスリーのイメージをやや変える必要がありそうです。

これまでは、医師とMRの不効率さを解消することで大きく成長しました。しかしサービスが大きくなるにつれて、成長余地は限定的になっています。

それをカバーするのが、M&Aによる新規事業の獲得です。この経営方針の場合、リスクも大きくなります。

  • のれんの増加
  • 買収先企業の高値掴みによる収益圧迫
  • 獲得した企業を本当に成長させられるのか?

こういった、新たな不確実性が生まれてきていると認識するべきです。

投資対象としてのエムスリーの評価は、PER30倍であれば少なくとも注目すべき株価水準になると感じます。長期的に保有できる企業かどうかは、現時点では判断が難しいと思います。

というのも、M&Aを中心とした成長戦略の場合、思ったよりも成長しないケースも散見されます。M&Aサクシードの調査によると、M&Aにおける目標達成度が80%を超える企業は36%です。

つまり大半のM&Aは目標に届いていない、ということです。それには様々な要因が考えられます。

  • 買収した企業の文化の違いがあり、想像していたシナジーが生まれない
  • 買収先企業への調査不足で組織内部の問題があることに気がつかない
  • 買収先企業を他社と競い合って割高になる(ベネフィットワンに対する第一生命との競争、など)

現状は、「既存事業が成長しないわけではないものの、かつての勢いがなくなってきている。加えてM&A戦略のリスクも意識されている。だから株価も落ちる」このように見えます。

一方でM&A以外の成長シナリオ(実現可能性は不透明です)を考えると、

  • 海外事業の成長(様々な地域の多岐にわたる事業を、「海外」と分類されているので、理解が難しい)
  • 市場の拡大(製薬メーカーの画期的な創薬によって、MR君の利用頻度が際拡大する、など)
  • オンライン医療の拡大(医者と患者をつなぐサービスとして新規事業となる、など)

私はこのようなケースが実現すれば、長期成長の可能性が高まると想像します。そもそも、エムスリーはこれまでM&Aを実践してきた経験があります。当初の予想通り、M&Aによって成長していく可能性も十分に考えられるでしょう。

また、日本の伝統的な企業と比較すると成長力があることも確かです。何より主力事業のビジネスモデルはわかりやすく、秀逸です。

これらを総合的に考えて、期待とリスクを理解しながらエムスリーに投資するのか判断してはいかがでしょうか?


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image by: polkadot_photo / Shutterstock.com
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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2023年12月18日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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