「アプリよりアイスだ」これはバフェットが10年後にどちらが生き残っているかと問われた時の言葉とされています。バフェットはこの半世紀で莫大な資産を株式投資によって築き上げてきました。その真髄が濃厚に語られているのが、『バフェットからの手紙』と呼ばれるバークシャー・ハサウェイ社のアニュアルレポートです。そのアニュアルレポートの最新号が先日発刊されました。今回はその中身に触れながらバフェットの投資の真髄を解説したいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
生成AIブームで半導体銘柄が高騰……ITバブルと同じ?
バークシャーはバフェットが経営する投資会社で、投資会社のアニュアルレポートは日本の有価証券報告書と同じように開示されるもので、インターネットでも見ることができます。
・2023 Annual Report (PDF file)
https://www.berkshirehathaway.com/2023ar/2023ar.pdf
今回のアニュアルレポートには、かなり衝撃的な言葉が並んでいましたが、特に「米国市場はカジノ的だ」という言葉はニュースなどでも取り上げられました。
“カジノ的”と聞くと、バフェットが今の米国市場に対して危険な香りを感じているのではないかと思ってしまいますが、ヘッドラインに踊らされることなく、しっかりと中身を読んで真意を読み解くことが大切です。
今、日本株が非常に好調です。
特に好調なのが半導体関連で、東京エレクトロンやアドバンテスト、レーザーテックといった半導体銘柄が日経平均を大きく引き上げています。
また、バフェットが日本の商社株を買ったことで日本の割安株に注目が集まり、これも日本株を上昇させる要因となりました。
半導体を取り巻く雰囲気は2000年頃のITバブルに酷似しています。
インターネットが始まった頃、日本でも「IT革命」ということで、とにかく「ドットコム」と名の付く会社がもてはやされて株価がどんどん上がりました。
しかし、バフェットは当時、IT銘柄には一切手を出しませんでした。
周りの投資家からは、「バフェットの時代は終わった」ともささやかれました。
ところがそのITバブルは崩壊し、バフェットはその難を逃れることができました。
もちろん、今のエヌビディアなどの上昇が当時のITバブルと全く同じというわけではありません。
なぜなら、エヌビディアはきちんと利益を出していて、その利益がどれだけ上がるかというところに人々が熱狂しているからです。
ITバブルの時は、とにかく「ドットコム」と付いている企業だったらどこでもよくて、利益どころか売上すらほとんど出ていないような企業もありました。
それに比べると今回の半導体株の高騰は中身があるのでかなりマシな状況です。
「流行」より「定番」
ここで大事になるのが、バフェットの「アプリよりアイスだ」という言葉です。
正確には、バフェットがある会社のアイスを見ながら、「この○○社のアイスは(パソコンやスマホなど)アプリケーションより長く残るだろう」と言ったということです。
これは世の中の真理をついた言葉だと私は思います。
新しいものや流行りのものは、確かに流行っている時は大きく上がったりしますが、流行が終わると影も形も無くなってしまいます。
それに対して、定番となったお菓子は、今も昔も変わらず残っています。
バフェットは、そういう定番品に投資するべきと言っているのです。
定番品には成長性が無く、エヌビディアのようなホットな銘柄に投資した方が儲けられると思ってしまうかもしれませんが、ここにバフェットが重視している大事な考え方があります。
その考え方が今回のアニュアルレポートにも記されています。
バークシャーの投資ルールの1つは、これまでもこれからも変わりません。
それは、資本を永久に失うリスクを決して負わないことです。
アメリカの追い⾵と複利の⼒のおかげで、私たちが活動する舞台では、⼀⽣のうちにいくつかの良い決断を下し、重⼤な間違いを避けることができれば、これまでも、そしてこれからもやりがいを感じられます。
どれほど儲ける可能性があろうとも、大きく損をすることになってしまうと、継続的な資産の増加を阻んでしまうということです。
いくら倍々ゲームで増やしていって、瞬間的には仮に1億円になったとしても、その次に半分になってしまっては元も子もなく、そういったリスクを負わないようにすることがバフェットの投資法です。
10年後にどうなっているか分からないものに投資するよりも、10年後も高い確率で残っているものに投資した方が、失うリスクを避けることができ、その失わないものの中で少しでも良いものを選ぶというものがバフェットの投資の考え方です。