「プロジェクト2025」の「統一行政理論」
このように民主党は、トランプを危険なファシストの独裁者だとするキャンペーンを一斉に始めた状況だ。トランプの危険性を訴えることによって、形勢を逆転する戦略だ。
そして、こうしたトランプ批判の根拠になっているが、トランプ政権が政策として採用する可能性の高い政策計画書の「プロジェクト2025」だ。これは920ページもあるトランプ政権を意識した政策計画で、保守の著名なシンクタンク、「ヘリテージ財団」が作成したものである。
ちなみにこの政策計画書は、「統一行政理論」という合衆国憲法の解釈に基づいている。「統一行政理論」とは、大統領に連邦政府の省庁の改編や官僚の罷免、さらに省庁や政府部局の予算の没収権などを認め、大統領の行政府に対する絶対的な権限を認めるとする理論だ。批判者はこれを大統領独裁制と呼ぶ。
「プロジェクト2025」の基本的な骨子はこの理論で一環している。行政府に対するすべての権限を大統領に集中させ、その巨大な権力を使って、「ディープ・ステート」と呼ばれる「ネオコン」を中心とした軍産複合体系集団の連邦政府における牙城をたたき潰すとしている。これは「ディープ・ステート」のみならず、トランプ政権の意向にしたがわないすべての部局が処分対象のなる。さらに、5万人の職員を解雇し、トランプに忠誠を誓う政治任命の公務員に置き換えることを約束している。
民主党のハリス陣営は、このような「統一行政理論」に基づく「プロジェクト2025」は、まさにトランプの大統領独裁制を可能にする計画書であるとして、トランプがファシストの独裁者であることの証左だとみなしている。
「合衆国憲法第4条第4項」
トランプの優勢がはっきりするにつれて、民主党はトランプの大統領就任の阻止にやっきになっている。たとえ、トランプが選挙で勝利しても、トランプ政権の成立を実力で阻止する構えだ。
そのときに適用を検討しているのが、「合衆国憲法第4条第4項」の規定である。前回の記事では、トランプが勝利してもバイデン政権は権力の委譲を拒否する可能性があると書いたが、この委譲拒否の根拠になっているのが、「合衆国憲法第4条第4項」である。この条項には次のようにある。
合衆国は、この連邦のすべての州に共和制の政府を保証し、各州を侵略から保護するものとする。また、立法府の申請に基づき、または(立法府が召集できない場合は)行政府の申請に基づき、国内暴力からも保護するものとする。
ちなみに共和制の政府とは、世襲の君主制に対する対立概念である。アメリカの共和制は、主権を持つ国民が大統領と議会を選出する民主共和制を基本としている。これは連邦を構成する各州も同じで、州民の選挙で選ばれた民主共和制の政体を維持しなければならない。憲法のこの条項は、大統領府に州の民主共和制の維持を義務づけるものである。当然この規定は、連邦政府に対しても適用されると解釈されている。
前回の記事にも書いたが、これは選挙を通して民主共和制を否定する独裁者の出現を阻止するための条項だ。したがって、もしトランプが当選すると、民主党はこの条項を適用し、大統領独裁制を主張し憲法を否定するトランプから合衆国の民主共和制を守るために、バイデン政権は権力の委譲を拒否する権限があるというのだ。バイデンはこれを宣言した直後に辞任し、ハリス副大統領が大統領に就任する。ハリス政権が成立すると、ハリスは「憲法制定評議会」を発足し、この手続きの合法性を審議し、確認する。
これはあまりに極端で、いくらなんでも実行は不可能ではないかと思うかもしれないが、民主党のハリス陣営は「憲法第4条第4項」を適用して政権を維持することを本当に検討しているようなのだ。いま行っているトランプを独裁者とするキャンペーンは、まさに「憲法第4条第4項」の適用を意識したものだ。







