農水大臣が小泉進次郎大臣に変わって、にわかに2,000円台のコメ価格に期待が高まっています。しかし、備蓄米の価格引き下げができても、コメ全体の価格引き下げは困難です。コメ価格の安定的な引き下げには、抜本的な対策が必要になります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年5月30日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
安い備蓄米が出ても
コメ不足で政府はこれまで何度も備蓄米の放出をしてきましたが、毎週のようにコメ価格が「最高値」を更新しています。
安い備蓄米のはずが競争入札米はあまり安くなく、それでも一部の店頭に出ると瞬間蒸発する事態で、ほとんどの人が手にできずにいます。
政府の買い入れ価格よりもはるかに高い値段で応札する入札方式が批判されました。政府(特別会計)が儲けてどうする、と政府内からも批判が出ました。
そこで小泉新大臣はこの入札方式を改め、随意契約として30万トンの放出を決めましたが、これに精米コスト、流通コストを上乗せすると税前では5キロ2,000円で出せるといいます。古古米で良ければ消費者はネット(楽天市場など)や大手業者を通じて2,000円のコメを買う選択肢が得られます。
しかし、先に入札したコメは入札価格が高い分、5キロ3,500円前後で出回るようで、これが2,000円になるわけではありません。まして令和6年米の価格は5キロ4,800円から5,500円程度でコメ店に並んでいて、これは供給が減る中で今でも上昇を続けています。これは仕入れコストが高く、すでに売り切れの銘柄もあり、銘柄米の価格はさらに高くなるリスクがあり、この価格引き下げはまず困難です。
根本的な2つの問題
備蓄米以外のコメが下がらない根本的な問題が少なくとも2つあります。
<問題その1:改善しない供給不足>
まず、令和6年産のコメはすでに収穫が終わっていて、今さら供給を増やすことができません。この令和6年産のコメがそもそも不足していて、そこへインバウンド需要や海外で日本のコメ需要が高まり、国内のコメ不足を助長しています。しかも、政府は「輸入米は一粒たりとも入れない」とコメの輸入を拒んでいます。
<問題その1:流通コストの高騰>
もう1つがコメの流通過程での価格高騰です。コメの価格が前年比2倍になって消費者が悲鳴を上げる中で、コメ農家が「令和の百姓一揆」を行いました。彼らは、コメの販売価格が上がっていると言っても、コメ農家の収入はこの10年変わらず、時給10円では後継者も現れないと訴えていました。
※参考:米高騰の中、「時給10円」を訴える米農家、1000万円以上の所得の事業者も。収益の差はどこに #生活危機 – Yahoo!ニュース(2025年5月25日配信)
つまり、コメの生産者価格はわずかしか上がっていないのに、最終小売価格が2倍になるのは、農協など中間流通過程でマージンを釣り上げたり、流通コストが上昇していたりしていることが要因になっています。従って、もう1つの高価格要因は、コメの流通段階でのマージンや流通コストの大きさが指摘されます。
備蓄米放出に限界
今回、小泉大臣の下で「随意契約」方式で備蓄米を放出することで、末端価格は5キロ2,000円(税前)が可能になるといいますが、これらは令和4年産米の、いわば古古米です。
これも終了し、今後の10万トンは古古古米となり、新米はもうありません。しかも、政府の備蓄米はあと30万トンで底を打ちます。
緊急事態が発生した時のコメ供給のバッファーがあまりないことになります。