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【展望】「リスク当事国よりも日本株が大きく下げる」状況からの脱却なるか?=馬渕治好

日本株が、世界の不安材料をせっせと仕入れ率先して下落する「不安の問屋」化がまた起こったようです。今週はこの「不安の問屋」化からの脱却なるかどうかがカギでしょう。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年4月9日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」2017/4/9より

過ぎし花~先週(4/3~4/7)の世界経済・市場を振り返って

<地政学的リスクと米経済統計などで忙しい週、日本株はまた「不安の問屋」化>

(まとめ)
先週は、想定以上に忙しい週になりました。これは、ロシアでのテロ、北朝鮮のミサイル発射、米国によるシリア政府側へのミサイル攻撃といった、地政学的リスクに加え、米国の主要な経済統計が好悪ともに際立ち、市場を揺り動かしたためです。ただ、たとえばシリア情勢については、関係各国が比較的冷静に対応しているなどもあって、世界市場全般の波乱は限定的だったとも言えます。

一方、日本株の下げが、他国の株価と比べて大幅です。日本発の悪材料が全くないのに、それぞれのリスクが発生した近辺の国々の株価より、日本株が大きく下げるという、過去にしばしば起こった現象です。日本株が、世界の不安材料をせっせと仕入れて率先して下落するという、「不安の問屋」化がまた起こったようです。

(詳細)
先週は、世界市場全般に波乱が生じ、想定以上に忙しい週となりました。その背景はいくつかありますが、地政学的リスクの高まりと、強弱両方が強く入り混じった米国の経済統計の、2つが主に挙げられます。

先週の地政学的リスクとしては、ロシアでのテロ(4/3、月)、北朝鮮のミサイル発射(4/5、水)、米国によるシリアへのミサイル攻撃(4/6、木、米国時間)がありました。
北朝鮮のミサイル発射は、4/6(木)~4/7(金)の、米フロリダ州における米中首脳会談を意識したものであると言われています。また、米国のシリア攻撃は、シリア政府軍が化学兵器を使用したとの疑念に対応したものですが、米国の動きはかなり速いものであり、やはり米中首脳会談において、中国側の北朝鮮問題に対する姿勢に、圧力をかけたものであった可能性が高いとされています。

シリア情勢自体は、混迷しているのは以前からのことであり、また米国は、今回のミサイル攻撃は、懲罰的な一回限りのことである、としています。シリア政府と近いロシアは、声明あるいは国連の場では、米国を非難してはいますが、4/12(水)からの米ロ外相会談は予定通り行なう構えであり、ロシアの対応は比較的穏やかなものである、との評価が多いです(真偽はわかりませんが、米国がロシアに攻撃を事前に伝えていた、という説もあります)。

このため、特に日本株式市場は、シリア情勢も、北朝鮮との関連という形で懸念した(シリアへのミサイル攻撃で、「次は北朝鮮を攻撃するぞ」と中国を牽制し、中国が北朝鮮に自制を求める形で、かえって今後の朝鮮半島情勢が沈静化する、という説もありますが、シリアに対してのように突然、米国が北朝鮮への単独攻撃を始める、という懸念もささやかれています)、という解釈が妥当であるように思います。

また先週は、米国の主要な経済統計が、好悪まちまちであり、内外市場を揺らしました。
想定より強かったものとしては、4/5(水)発表の3月のADP雇用統計(雇用者数前月比は、2月の24.5万人増から26.3万人増に、増加幅が広がる)、4/7(金)発表の3月の雇用統計のうち失業率(2月の4.7%から4.5%に改善)がありました。

一方、弱かったものとしては、4/3(月)発表の3月のISM製造業指数(2月の57.7から57.2に悪化)、4/5(水)発表の同非製造業指数(2月の57.6から55.2に大幅低下)、前述の雇用統計のうち非農業部門雇用者数前月比(9.8万人増にとどまる)が挙げられます。

この他の材料としては、4/5(水)に、FOMC(連邦公開市場委員会)議事録が公表されました。このなかで、メンバーの大半が「年後半にも、保有有価証券の再投資政策の変更が適切になる」との認識を示した、との記述がありました。また、4/7(金)には、ニューヨーク連銀のダドリー総裁が、講演後の記者会見において、景気の状況によっては「今年末か来年にもバランスシート正常化を始める」と語りました。

このため、保有有価証券の保有残高を減らす、という引き締め策を取る分だけ、利上げが抑制的になる、したがって、金利先高観が薄れた、という「口実」により、米ドルが売られる局面がありました。ただ、量的緩和を縮小しようと、利上げしようと、金融引き締めには変わりありません(結果として、理論的には、どちらも米ドルを押し上げる効果があることにも変わりません)ので、為替市場の動きは理屈が通らないものであったと言えるでしょう。

なお、連銀の保有有価証券縮小という形での、量的緩和からの撤退は、世界の株価の下落につながる、という説もよく耳にします。カネ余りが縮小することは、株式市場などにとって決してプラス要因ではありませんが、その点ばかりが過度に懸念されているように考えます。その点は、この後の「理解の種」で解説します。

また、米国の経済政策関連では、4/5(水)に、ライアン下院議長が、「税制改革には時間がかかる」と語ったことが、米株式市場の悪材料であった、という声があります。ただ、当メールマガジンで何度も述べているように、税制改革がどんどん遅れそうだ、ということは最初から自明のことですので、これも今更騒ぐものではない、という感が強いです。

さて、こうした諸材料で、内外市場は上下に振れましたが、週を終えてみると、一方的に株価が下がり続ける、といったような、暗い相場付きにはなりませんでした。ところが日本株だけをみると、世界でもダントツのひどさです。

その状況を確認するため(確認したくないかもしれませんが…)、先週の世界の株価騰落率ランキング(現地通貨ベース)をみてみましょう。

先週は結構株価が上昇した国も多かったです。騰落率ベスト10は、ベネズエラ、スリランカ、フィリピン、ハンガリー、オーストリア、ポーランド、アルゼンチン、ギリシャ、チリ、中国(上海)でした。

ワースト10は、TOPIX、日経平均、スウェーデン、イタリア、ドイツ、モロッコ、ブラジル、ナスダック総合、パキスタン、トルコでした。日本の2指数が、華々しく1・2フィニッシュしています。

述べたように、先週の市場波乱の材料を振り返ってみれば、日本以外の要因ばかりです。ところが、ロシアでテロがあってもロシア株はワースト16位、北朝鮮がミサイルを発射したり、朝鮮半島情勢で懸念が広がったりしても、韓国株はワースト11位、シリアを米国が攻撃しても、隣国トルコの株価はワースト10位で、さらには米国の金融政策や経済政策を巡る不透明感があっても、米国株ではナスダック総合がワースト8位、S&P500もワースト12位です。

つまり、日本株は、海外の様々な不安材料を、「不安の問屋」としてせっせと仕入れ、リスクの当該国よりも大きく下落しているわけです。こうした日本株ばかりが率先して下げをリードする(リードして欲しくありませんが)、という展開は、過去にもしばしば起こりました。なぜこのような現象が起こってしまうかは、「盛りの花」で述べます。

一方、外貨相場(対円)の騰落率ランキングは、地政学的なリスクなどが、素直に反映されているように見えます。

まず、先週対円で上昇した(円安になった)通貨は、6通貨と少なく、いわゆる「リスク回避のための円高」という色合いが濃かったのでしょう。その6通貨とは、ブラジルレアル、コロンビアペソ、インドルピー、チェココルナ、チリペソ、メキシコペソでした。

対円で下落した(円高になった)通貨のランキングワースト10は、南アランド、トルコリラ、豪ドル、韓国ウォン、スウェーデンクローナ、ロシアルーブル、ハンガリーフォリント、台湾ドル、チュニジアディナール、英ポンドでした。

このうち、トルコリラは隣国のシリア情勢、韓国ウォンは朝鮮半島の懸念、ロシアルーブルはテロの影響だと言えます。

また、南アランドは、格付け会社S&Pが、4/3(月)に、南アフリカの外貨建て長期債務格付けを、BBBマイナス(投資適格級)からBBプラス(ジャンク)に格下げしたことが影響しています。ジャンクの格付けとなるのは、2000年2月以来のことです。

また豪ドルの下落については、4/4(火)のRBA(豪州準備銀行)理事会を受けたものです。ここでは、予想通り政策金利は据え置かれました。その一方で、理事会後の声明では、現在の豪景気は、一時の鉱業投資ブーム後の調整局面に当たるが、「通貨高はこの調整を複雑にする可能性がある」と述べられていたため、RBAが豪ドル高を牽制したとの解釈が広がりました。

他の材料としては、前述のように米中首脳会談が開催されましたが、貿易問題は議論された模様ではあるものの、為替調整など、市場を動かすような材料は飛び出してきませんでした。

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