盛り込むべきだった「一文」
さて、このようなケースは実際に少なくありません。一夫さんは、次郎さんと合意ができるまで手続きを行うことができず、場合によっては争いに発展してしまいます。これは、遺言書を書いた太郎さんの本意ではないはずですよね。
では、どうすれば良かったのでしょうか。太郎さんが遺言書をつくる段階で、「もし、自分よりも先に一郎が死亡したら、一郎に相続させると書いた財産は、すべて一郎の子である一夫に相続させる」という一文を盛り込んでおけばよかったのです。
このような一文さえあれば、今回のような事態が起きても、一夫さんは、次郎さんの同意なく手続きができたはずでした。
自分より先に子が亡くなるなど、考えたくもないことかと思います。しかし、可能性が誰でもゼロではない以上、万が一に備えた一文をしっかり入れておくことで、後のトラブルを予防できるのです。
「こんなことまで遺言書に書いて、お父さんって心配性だったんだね」と、笑られるくらいで良いのです。
また、万が一のことがあった際に書き直せば良いのですが、今回のように、想定しえない事実があった後は意気消沈する方が少なくありませんし、遺言書の書き換えにまで、なかなか頭が回りません。また、認知症になってしまえば、原則として遺言書の書き直しは不可能です。そのため、最初に作成する段階で、様々なケースを想定して盛り込んでおく必要があるのです。
様々なケースを想定して遺言書を作成しよう
このような不測の事態に備えた記載を「予備遺言」と呼びますが、予備遺言のない遺言書であっても、作成することは可能です。
また、安易に「長男が先に亡くなったら、その子どもにいくから大丈夫でしょ?」と考えて、「別にそんな記載はいらない」というケースも少なくなりません。ここで、リスクを説明せず、言われたままに作成する専門家はちょっと危険です。この例のように、遺留分についてだけ説明して、予備遺言については言及しない専門家。非常に恐ろしいですね。
遺言書を作る際はぜひ、法的な要件のみではなく、様々なケースに対応できるのか、しっかりと検討して作成してください。
もちろん、ひとりで考えていては想定が漏れてしまう可能性もありますから、ぜひ、相続に詳しい専門家に相談して、本当に安心できる遺言書を作成するようにしましょう。
『こころをつなぐ、相続のハナシ』(2017年6月14日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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