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ゼロリスクという愚。豊洲水銀騒動に見る危機管理の心理学=内閣官房参与 藤井聡

第一に、大気や土壌の中に水銀が含まれることは、きわめて一般的です。それが「ある」こと自体を騒ぎ立てることは、ナンセンスです。
https://www.pref.saitama.lg.jp/cess/cess-kokosiri/cess-koko20.html

だから問題はその「濃度」なのですが、それについての「国の指針」は、大気中の水銀は1立法メートルあたり「0.04ug」以下(ug = マイクログラム)。

今回はその7倍の、1立方メートルあたり「0.28ug」が、地下ピット内のいくつかの空気中で検出された、とのこと。これが今回の「騒動」の原因なのですが、そもそもこの「国の指針」というのがどこから来ているのかといえば(後ほど詳述しますが)、「その空気を、生涯吸い続ける」ことで、健康被害が生じるリスクが無いとは言いきれない濃度を意味しています。つまりそれは、私たちが四六時中呼吸している生活空間の「大気」の基準なのです。

したがって、今回取り沙汰されている「国の大気の指針」なるものは、通常人が立ち入ることがない「地下空間内の空気」の質を云々するような指針とは全く別。そもそもその地下空間内に住み続ける人なんてどこにもいないのですから、今回の一件は「オワタ!」等と大騒ぎするような話ではないのです。

にもかかわらず、それを知らない(そして、豊洲の汚染が真実であってほしいという潜在的願望を根強く持っているであろう)記者やネット住人達が騒ぎ立てている…というのが実態だという次第です。

とはいえ、食品を扱う市場の下の空気が汚染されているのは、なんだか不安――と言う方もおられるかもしれません。しかしその点についても、少なくとも今回の報道情報から判断する限り、過剰に「不安」がる必要は全く無いと筆者は考えます。

詳しくは、文末の【付録:水銀の環境指針について】に記載しますが、そもそも、今回参照された「国の指針」である「0.04ug」という数字は、どれだけ体重が軽い人でも、仮に懐妊していても母胎のみならず胎児にすら影響が出ることはほぼ「絶対」ないと言い切れる水準です。

つまり日本の環境の指針は「安全側すぎるほどに安全な指針」ともいえるものなのであって、実際、ドイツでは、健康に被害が出る水準として設定されているのが「0.35ug(1立方メートルあたり)」という約9倍の水準ですし、
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002kunp-att/2r9852000002kusc.pdf

WTOでは「1ug(1立方メートルあたり)」という約25倍の水準となっています。
https://www.pref.saitama.lg.jp/cess/cess-kokosiri/cess-koko20.html

だから、今回の豊洲で報道されている水銀量は、極めて厳しい「日本の指針」を「7倍」という形で上回る結果が示されましたが、環境に厳しいドイツを含めた諸外国では基準値以下の「安全」と言われる水準なのです。

さらに言うなら、もう一度繰り返しますが、あの地下空間に住み続ける人などいないのですから、この基準で考えること自体がナンセンス。

日常的に摂取する「飲料水」とそうでない「排水」の基準では10倍の開きがあるのですから、「地下室内の空気」も、日常的に摂取する大気の基準を「10倍」の基準で考える方が合理的ということもできるでしょう。

そう考えれば、日本の指針の「7倍」となった今回の地下室内の空気は、日本の極めて厳しい(日常的に摂取しない空気として想定される)環境指針をも「クリア」できるほどに「衛生的」な空気だということもできるでしょう。

以上の議論だけでも十分だと思われますが、さらにだめ押しでもう一つ付け加えるなら、この地下空間内の空気なぞ「換気」をすれば、一気にその濃度が低下することは火を見るより明らかです。

実際、東京都の「専門家会議」の委員も十分知っていて、平田健正座長も「換気」の必要性について言及していることを最後に申し添えておきましょう。

Next: まとめ:「豊洲移転」が全く問題にならない3つの理由

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