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国民が知らぬ間に…なぜ日本国はTPP拙速審議で「自殺」するのか?=施光恒

(2)骨抜きにされる国民皆保険制度

次に、国民皆保険制度についてです。国民皆保険制度に関して、政府は、TPPの例外事項であるから心配ないと繰り返しています。つい先日の国会審議でも、塩崎厚労相はそのように答弁していました。

確かに、国民皆保険制度それ自体が、TPP発効後、ただちに解体されるということはなさそうです。TPP協定合意案文の第11章「金融サービス章」には、「公的年金計画又は社会保障制度に係る法律上の制度の一部を形成する活動やサービス」には適用しないとありますので。

ですが、それで本当に国民皆保険制度が守られたのかというと、どうもそうとは言えないようです。協定文には次のような但し書きもあるからです。「ただし、締約国が自国の金融機関に対し…、公的機関または金融機関との競争を行うことを認める場合には、当該活動又はサービスについて適用する」。山田氏によれば、ここにある「金融機関」には、例えば、アフラックのような民間保険会社も含まれます

いわゆる混合診療は、一部すでに始まっています。つまり、保険適用の治療については保険で賄い、保険外の先端医療を受けた場合は、その保険外の部分は自己負担するというやり方です。

例えば、今年4月に「患者申出療養制度」が始まりました。これは、患者側が希望して、手続きをとれば、保険適用外の先進医療も受けることが可能になるという制度です。すでに外資系の保険会社は、この自己負担分の先進医療を受ける費用を対象とする保険商品を販売し始めています。

従来、日本の国民皆保険制度は、国民が平等に医療を受ける権利の確保という観点から、保険外の先端治療についても、その効果や安全性が確認されれば、順次、保険が適用される治療法や薬品のリストに加えていくことが前提となっていました。そうでなければ、公的医療保険で賄える治療法は、次第に古い、時代遅れのものとなってしまうからです。

しかし、TPPが発効すれば、現在、保険外の先端医療を、保険適用の治療法のリストに加えていくことが難しくなってしまうと、山田氏は指摘します。というのは、周知のとおり、TPPには、外国へ投資するグローバル企業の利益保全のため、ISD条項が含まれているからです。

外資系企業や外国の投資家は、投資対象国の政策変更などの措置のため、期待していた利益が得られなくなってしまった場合、その国の政府を訴えることができます。ISD条項は、公的医療保険の問題にも大いにかかわってくる可能性があります。

将来のある時点で、ある先進医療の安全性や有効性を厚労省が確認し、公的医療保険が適用されるリストに収載したとします。例えばその場合、先進医療を対象とした保険商品をすでに販売している外資系保険会社が「期待していた利益が得られなかった」と言い出す可能性は否定できません。そのため、山田氏は、「『患者申出療養制度』によって公的医療保険の対象外となる先進医療は、事実上これから先も公的医療保険として収載することはできなくなる」というのです。

もしそうだとしたらこの話、大問題でしょう。国民皆保険制度で賄える治療法や医薬品は、現状のものにとどまり、時を経るとともにだんだんと陳腐化し、時代遅れのものだけになってしまうということです。

TPPが発効すれば、新しい治療法の恩恵を被ることができるのは、高額な民間保険を購入できる金持ちだけに限られ、お金のない庶民は時代遅れの治療法だけしか受けられないという悪夢のような状態が、現実化するかもしれません。

Next: 日本国や地方自治体が外国企業から訴えられ「がんじがらめ」に

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