安倍総理に立ちはだかる壁
アベノミクスの中心政策は日銀による「異次元の金融緩和」だが、これに対して疑問を呈しているのが野田総務相や河野外相である。
黒田日銀総裁の任期を来年4月に控え、今後、黒田日銀総裁の続投や後任候補選定の過程では、「異次元の金融緩和」の効果と問題点に関してこれまで以上に厳しい議論が巻き起こるはずである。
黒田日銀は、2013年4月に導入した「異次元の金融緩和」によって金融政策の目標を「金利」から「お金の量」に変え、年間80兆円規模で「お金の量」を増やしてきた。しかし、2016年9月に「イールドカーブコントロール政策」を導入し、金融政策の目標を「お金の量」から「金利」に戻したことで、この1年間で「お金の量」はそれ以前の80兆円から60兆円ほどに減らされている。
こうした「お金の量」が減らされていることに対して、債券市場などではすでに「ステルス・テーパリング(量的緩和の規模縮小)」という指摘がなされている。自民党内で「安倍一強体制」が弱まる中、黒田日銀総裁の任期が迫ってきていることで、今後これまで以上に厳しくアベノミクスの検証が行われていくことは必至の情勢である。
その過程で、「実際には異次元の金融緩和は縮小に向かっている」「日銀が国債やETF(上場投信)を購入することで将来世代にツケを回している」という認識が広がっていくのは十分に考えられることである。
こうした中で「さらにアベノミクスを推し進める」のは、安倍総理が主張するほど簡単ではない。
総選挙で自民党が大勝したことで、表面的な政治の安定は保たれた格好になった。しかし、国会での「自民党一強体制」が維持されたことと、自民党内で「安倍一強体制」が維持されることは別問題であり、金融政策の継続性が担保されたわけではないことには注意が必要だ。今回自民党が大勝したことは、しばらくの間政治の分野から暖かい風が吹き込む可能性が少なくなったことでもあるのだから。
希望の党が完敗したことで、今後は、政治的には希望の党がどのような末路を辿るのかが注目されるとともに、経済政策面では、自民党内でアベノミクスに対してどのような議論がなされていくのかが注目点になったといえる。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年10月24日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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