「アメリカの裏切り」でもある「イスラム7カ国からの入国禁止」
このように見ると、いま大きな論争の的になっているイスラム7カ国からの入国禁止処置の別な意味が見えてくる。
もちろんこの入国禁止処置には、米国内のテロの発生を抑止する意味もあるだろう。しかし、そのような表向きの説明とは異なる意味がある可能性が大きい。
いま日本では、この処置はこれらの国々で反米感情を煽ることになるので、テロを増加させる可能性のほうが大きいと報道されている。たしかにそれは間違いない。
他方、イラク政府軍、シリアの反政府勢力、イエメンの反体制派、リビアの反政府勢力など、アメリカと協力関係にある勢力が多い国々も含まれている。これらの勢力からすると、今回の入国禁止処置は「アメリカの裏切り」として受け取られたとしても驚くべきではない。
なぜなら、こうした勢力は、いざ自分たちの勢力が追い詰められたときは、アメリカへの亡命をひとつの選択肢として見ているからである。
中東に拡大する中国とロシア
いずれにせよ、これらの国々では反米感情が高まり、その結果、アメリカの影響圏から離脱する動きがこれから加速するはずだ。そして、これらの国々が関係を強化するのは、アジアからヨーロッパの全域でユーラシア経済圏の形成を加速させているロシアと中国である。
最近、特に中国は中東で一気に存在感を拡大しているので、この動きは7カ国の入国禁止処置でさらに加速することだろう。
すでに中国は、ユーラシア経済圏拡大の一帯一路構想に中東を組み込みつつある。昨年、中国はエジプトと合同軍事演習を行い、関係を強化している。450億ドル相当の投資も行う計画だ。
さらに中国は、イスラエルとの関係強化も図っている。中国はイスラエルのハイファ、アシュトッド、そしてエリアットのコンテナの陸揚げが可能な3つの港湾の整備を行っている。
特に紅海に面したエリアット港には、2019年までに中国からの鉄道が乗り入れ、一帯一路構想に組み入れる計画だ。それとともに、イスラエルには600億ドルの投資も実施する。
今回の7カ国からの入国禁止処置で、中東全域でこれからさらに高まる反米感情は、こうした中国の一帯一路構想の拡大にとっては好都合のはずだ。
すでに多くの専門家の間では、中国が中東における経済関係の強化をテコにして、原理主義の嵐で揺れている地域に政治的な仲裁役としての存在感を強める可能性が指摘されている。もちろんこれは、ロシアとの積極的な協力を背景に行われるはずだ。
すると、イスラエルも含め中東全域が中ロ同盟の影響圏に組み入れられ、アメリカは排除される結果になるだろう。