日銀金融政策決定会合(7月14、15日開催分)の議事要旨が12日に発表されました。ここのところ「現状維持」が続く日銀会合ですが、その議事要旨からは金融緩和の縮小を主張する木内登英委員とリフレ派委員の「激論」の跡がうかがえます。『牛熊ウイークリー』を配信する金融アナリストの久保田博幸氏が解説します。
日銀金融政策決定会合、最新の議事要旨からわかること
現状維持のウラで交わされた、静かな激論
日銀の金融政策決定会合はこのところ現状維持が続いているが、会合ではかなり白熱した議論が行われているようである。議事要旨ということで、かなりオブラートに包まれた表現ながらも、実際には意見の相違による激論が交わされている可能性がある。
7月14、15日の金融政策決定会合では、特に当面の金融政策運営に関する委員会の検討の部分でそれが伺える。
ある委員は、国民全般や経営者の心理面で、「物価安定の目標」に向けた金融政策運営に対する信頼性が向上しており、期待への働きかけは非常に重要な段階にあると述べた
一人の委員は、名目金利の下げ余地が限られる中で、実質金利をさらに引き下げるには予想物価上昇率を引き上げるほかないが、金融政策のコミットメントのみでこれが実現できるかは不確実性が高く、効果と副作用を丁寧に検証していく必要があると述べた
これに対し別の委員は、不確実性が高いとしても、予想物価上昇率の上昇が金融政策なしに実現することはないとの見方を示した
上記の意見は、真ん中が木内委員とみられるが、その前後はそれぞれリフレ派とみられる委員の発言であろう。
木内委員に対するリフレ派の攻撃
木内委員に対するリフレ派の攻撃はさらに続く。先行きの金融政策運営の考え方について、下記の発言があった。
一人の委員は、需給ギャップがゼロ近傍まで改善する中、逓減している「量的・質的金融緩和」の追加的効果を副作用が既に上回っており、導入時の規模であっても、金融面での不均衡の蓄積など中長期的な経済の不安定化に繋がる懸念があると述べた。この委員は、現行の政策方針の長期化に伴い累積的に高まる副作用として、日本銀行の資産買入れが国債市場の流動性に与える影響や、金融緩和の正常化の過程で日本銀行の収益が減少し、自己資本の毀損や国民負担の増加にも繋がりうることなどを指摘し、早めに減額に着手することが適当であると述べた
この発言はこの会合でも反対した木内委員であることは間違いない。この意見に対して複数人が反撃している。
何人かの委員は、消費者物価上昇率が0%程度で推移するなど2%の「物価安定の目標」に向けてなお途半ばである現時点での減額開始は、政策効果を大きく損なうとの見方を示した
複数の委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた
このうちある委員は、減額開始が金利の急上昇や実体経済の悪化を招くおそれがあるほか、金融政策の遂行に当たっては、日本銀行の収益よりも、物価安定の実現という政策目標を優先すべきであると付け加えた
また、この委員は、短期間での「物価安定の目標」の達成が難しいと主張しながら、金融緩和スタンスを後退させるのは矛盾しているとも述べた
最初の何人かの委員は2~3人の委員とみられるが、このうち複数、たぶん2人の委員が木内委員の意見に食ってかかった格好となっいる。金融面での不均衡、金融緩和の副作用を示す「理論」との言い方をみると、これはリフレ派筆頭の岩田副総裁、そして原田泰委員あたりかと思われる。
今のタイミングで木内委員の主張するようなテーパリングを行うとそれがテクニカルなものであったとしても市場は金融引き締めと捉える懸念がある。しかし、いずれこの規模の国債買入を行っていくと国債買入の未達を招くことも予想され、その前に何かしらの手を打つ必要を木内委員は主張しているのではないかと思われる。
問われるリフレ派の説明責任
金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた委員が複数いたが、この委員には異次元緩和そのものが物価に働きかける具体的な根拠がなかったことも理論に基づいて説明する必要があるのではなかろうか。
基調はしっかりとか、いずれ物価は上がるとかの期待はさておき、2年で2%の物価目標を達成できなかったことを、理論的に説明する必要がある。特にマネタリーベースとの関係における説明が絶対に必要になろう。
木内委員が日銀の収益に言及したのは、国債の価格下落という副作用を懸念した表現かとみられる。正常化の過程での長期金利の上昇が伴えば、金融市場が不安定化する懸念がある。
金利の上昇はあくまで仮定であり、これまでもオオカミ少年のごとく指摘されていた。しかし、このリスクをこのまま永久に封じ込めることはできない。日銀がそのリスクを押さえつけている以上、これは日銀がもう後戻りできないことを示しかねない。
だからこそ、テーパリングを早めに実施し、フレキシブルな金融政策に戻す必要性を木内委員は主張しているものと思われる。
ここで疑問なのは、複数人のリフレ派が木内委員を責め立てている図式となっているなか、木内委員を支援する声が出ていないことである。2014年10月の異次元緩和に反対した委員は木内委員の意見に近いものと思われる。7月の会合から参加した布野委員もリフレ派よりも木内委員の意見に近いとみられるが、いまのところ発言は控えているのであろうか。
2年で2%の物価目標に対するリフレ政策は効果が出ていない。物価は金融政策でコントロールできるとの理論にそもそも間違いがあったということにはならないのか。それを主張しているのが木内委員一人しかいないという状況にむしろ怖さも感じるのは気のせいなのであろうか。
『牛熊ウイークリー』(2015年8月14日号)より一部抜粋
※見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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