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異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治

2. 日本経済は、何から脱却せねばならないのか?

The weaning issue :
Back in 1998 Japan was in the midst of its lost decade: while it hadn’t suffered a severe slump, it had stagnated long enough that there was good reason to believe that it was operating far below potential output.(3)

何から脱却するのか:
1998年にさかのぼると、当時の日本は失われた10年のただ中だった。厳しい不況ではないにせよ、潜在生産力のはるか下の状態と思える停滞した動きでしかなかった。<翻訳(3)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

経済の「潜在生産力」は重要な概念です。これは、雇用が完全で、企業の設備が100%稼働した状態のときの商品供給力を言います。1998年の日本は、この「潜在生産力」は高かったのに、バブル崩壊後の金融危機によって実際の需要が大きく減っていました。

クルーグマンが『流動性の罠』論を書いた1998年に、日本では金融危機が起こっていたのです。リーマン危機よりはひどくなかった。それでも、金融機関には200兆円の不良債権が発生していました。

This is, however, no longer the case. Japan has grown slowly for the past quarter century, but a lot of that is demography. Output per working-age adult has grown faster than in the United States since around 2000, and at this point the 25-year growth rates look similar (and Japan has done better than Europe): (4)

しかし、現在は事態が異なっている。日本の過去4半世紀は、人口問題を除けば、緩やかだが成長していたからだ。労働人口1人当たりの生産高の増加を見ると、ほぼ2000年ころからは米国より高く、過去25年を見ても米国とほぼ変わらない。(日本は欧州よりいい)<翻訳(4)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

過去25年とは、1990年のバブル崩壊から今年2015年までです。この間、日本経済は、生産年齢人口の減少から来る問題以外では、ゆるやかな成長をしていたとクルーグマンは言います。

「労働人口1人当たりの生産高の増加を見ると、ほぼ2000年ころからは米国より高く、過去25年を見ても米国とほぼ変わらない。(日本は欧州よりはいい)」からです。これは事実です。

つまり、

  • 1人あたりGDPでは、米国や欧州より成長していたが、
  • 労働人口の減少のため、GDP全体の伸びが低いのが日本だった

のです。

GDP=1人当たりGDP×生産年齢人口(15歳~64歳)×就業率(約78%)です。

働く現役世代である生産年齢人口は、わが国の場合、世界でもっとも早く、1998年の8726万人を頂点にして減少しています。2015年は7682万人です。17年間で1044万人(12%)も減っています。就業率の78%には大きな変化はないので、生産年齢人口の減少率が働く人の減り方を示します。1年平均で61万人(0.7%)減ってきたのです。
生産年齢人口が32年ぶりに8000万人を下回る[PDF] – 総務省統計局

直近2015年から2020年の間に、生産年齢人口は7682万人から7341万人へと、341万人の減少となります。やはり1年に「341万人÷5年=68万人(0.9%)」の割合で減っていきます。

これは、1人当たりGDPで年率2%という、21世紀としては高い成長をしても、GDPの成長は1%にしかならないことを示します。

日本は、1990年から2015年まで、1人当たりGDPでは米国よりも早く成長していた。当然、欧州よりも良かった。しかし、ドイツ、英国、イタリアにも先駆けた生産年齢人口の減少により、全体のGDPは低くなっていたとクルーグマンは言っています。

You can even make a pretty good case that Japan is closer to potential output than we are. So if Japan isn’t deeply depressed at this point, why is low inflation/deflation a problem?(5)

日本は、米国よりも潜在成長力に近いケースと見ることは、極めて妥当なことだ。現在、日本がひどい不況でないとすれば、なぜインフレ率の低さ(あるいはデフレ)が問題になるのか。<翻訳(5)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

経済の実力である潜在成長力とほぼ同じGDPが実現されているときは、不況ではありません。不況とは、生産力の実力が、需要の少なさにより発揮されていないときです。需要が少ないときは、ケインズ的な有効需要を増やせばいい。これが、日本が1990年以降とっている、年間35~40兆円の財政拡張政策です。金融面では、赤字を補う国債の発行になります。

ところが日本は、生産年齢人口の減少で低くはなっているが、潜在成長力に近いGDPは実現している。

内閣府の試算では、潜在成長力は1年0.6%です(2014年)。日銀の推計では、2014年10月でのもっとも新しい潜在成長力は0.2%と、内閣府より低い。以上が意味するのは、日本経済は実質で1年に1%成長すれば、潜在成長力を超える好況であるということです。

これは、個人の平均所得の成長で、物価上昇をマイナスした実質で1%の上昇に相当します。

Next: 3. GDP成長率が潜在成長力に近い日本で、なぜインフレ率の低さが問題になるのか?

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