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異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治

3. GDP成長率が潜在成長力に近い日本で、なぜインフレ率の低さが問題になるのか?

では、なぜインフレ率の低さが問題だと言われるか?

The answer, I would suggest, is largely fiscal. Japan’s relatively healthy output and employment levels depend on continuing fiscal support. Japan is still, after all these years, running large budget deficits, which in a slow-growth economy means an ever-rising debt/GDP ratio: (6)

答えは、財政的なものだと推測する。日本の比較的に良好なGDPと雇用水準は、財政からの継続的な支援によるものだ。日本は、近年はずっと、結局は大きな財政赤字(※年間35~40兆円)を出し続けている。その財政赤字は、低い成長率の経済が、GDPに対する政府の債務比率を恒常的に上昇させていることを意味するからである。<翻訳(6)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

日本経済は、経済の実力に近い実質GDPの成長率を続けている。そのことが問題になる理由は、毎年の財政赤字が大きいことだ。GDPに対する政府債務の比率(2015年現在は240%)がどんどん拡大すると、財政危機を迎えるからである、と言っています。

クルーグマンが示した2014年のGDPに対する基礎的財政収支(プイマリーバランス)の赤字は、日本が6%、米国が2%。欧州は1%のプラスです。

つまり、日本は毎年の基礎的財政赤字のGDPに対する比率が6%と大きいため、低いGDP成長では「好況」であっても足りない。物価上昇を含む名目GDPの成長が6%以下の場合、GDPに対する債務比率は、どんどん膨らんでいくからです。

4. 日本政府のGDPに対する債務比率

So far this hasn’t caused any problems, and Japan has clearly been much better off than it would have been if it tried to balance its budget. But even those of us who believe that the risks of deficits have been wildly exaggerated would like to see the debt ratio stabilized and brought down at some point.(7)

今のところ、この財政赤字の大きさは何ら問題を引き起こしてはいない。日本は、均衡財政をとったときより、はるかにいい経済状態にあることははっきりしている。しかし、財政赤字の危機は大げさに言われ過ぎていると思っている我々ですら、債務比率が安定するか下がって、ある地点に落ち着くことを望みたい。<翻訳(7)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

GDPに対する政府債務比率が、現在の240%を超えて高まると、財政危機に向かうからです。現在の傾向では、これは毎年6%くらいずつ増えていきます(2015年240%→2016年246%→2017年252%……2020年270%……2030年300%)。

5. 流動性の罠からの脱出。リフレ策の目的は実質金利をマイナスにすること

And here’s the thing: under current conditions, with policy rates stuck at zero, Japan has no ability to offset the effects of fiscal retrenchment with monetary expansion.
The big reason to raise inflation, then, is to make it possible to cut real interest rates further than is possible at low or negative inflation, allowing monetary policy to take over from fiscal policy.(8)

政策金利がゼロにはりついている現在の状況では、日本は、財政緊縮で経済が縮小する結果を、マネーの拡張で相殺はできない。インフレにもって行くべき大きな理由は、低いインフレあるいはマイナスのインフレのときより、実質金利を下げることが可能になるからである。実質金利がマイナスに下がれば、財政政策に変わる、金融の拡張政策が可能になる。<翻訳(8)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

「政策金利がゼロにはりついている現在の状況では、日本は、財政緊縮で経済が縮小する結果を、マネーの拡張政策で相殺はできない」は、若干理解が難しい部分です。

クルーグマンは、短期金利がゼロのときは(=現在の日本は)、日銀が量的緩和によりマネタリー・ベースを増発しても、それが、企業や世帯によって使われることにはならないということを書いています。これも、確かにその通りです。

日本にインフレが必要な理由は、インフレ率が高くなると、実質金利がマイナスになるからだと言うのが、クルーグマンの『流動性の罠』の治療法です。

リフレ派は、「物価を上げることで、実質金利をマイナスにする」ことを、金融政策の目的にしています。

名目金利は、われわれの預金や借り入れの金利です。これは0%が下限です。政府・日銀が、銀行預金の金利をマイナス2%にすれば、預金者は皆、預金を引き出してタンス預金に変えます。これでは全銀行が破産するからです。

ゼロ金利になると、金融政策は無効になります。ゼロ金利のときは、現金需要が無限大に向かって発散し使われず退蔵されることを、ケインズは流動性の罠と名付けたのです。

流動性の罠から脱するには、経済をインフレにもって行き、実質金利をマイナスにすることです。「実質金利=名目金利-予想物価上昇率」です。

例えば、住宅価格がインフレのため、年率で4%は上がると人々が予想する場合です。ローン金利を30年固定で1.5%とします。この場合のローンの実質金利は、「名目金利1.5%-住宅価格の予想上昇率4%=実質金利マイナス2.5%」です。

4%のインフレとは、10年後の住宅価格では「1.04の10乗=1.48倍」が予想される状態です。現在3000万円で買える住宅が、4440万円へと1440万円も上がることが予想されます。こうなると、1.5%の金利を負担し、新しい住宅に買い替える人も増えるでしょう。

このように、将来物価に対する人々の予想を上げて、実質金利をマイナスにし、需要と設備投資を増やすのがリフレ策です。

実質期金利がマイナスになれば、政府の債務比率も低下する

実質金利がマイナスになれば、GDPに対する政府の債務比率を増やし続ける財政拡張策の代わりに、金融策をとることができるとクルーグマンは言います。財政の赤字を少なくし、政府が財政支出を減らしても、民需の増加(世帯と企業の需要増加)で、財政支出の減少を補うことができるからです。

需要の増加による予想インフレ率が4%になれば(クルーグマンの主張は4%です)、企業もインフレで売上が増えると予想し、生産力、販売力を大きくするための設備投資を増やすからです。例えば、地域の消費需要が物価上昇により金額で4%も増えると小売業が予想すれば、出店ラッシュが起こります。

I’d also add a secondary consideration: the fact that real interest rates are in effect being kept too high by insufficient inflation at the zero lower bound also means that debt dynamics for any given budget deficit are worse than they should be. So raising inflation would both make it possible to do fiscal adjustment and reduce the size of the adjustment needed.(9)

もうひとつ付け加える。ゼロ金利限界の中の不十分なインフレのため、実質金利が高止まりしている事実が意味していることは、所与の財政赤字に対する債務ダイナミクスが、あるべき水準より悪いことである。インフレ率を上げれば、財政赤字比率に適合し、調整の規模も縮減することができる。<翻訳(9)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

債務ダイナミクスとは、名目経済成長率が金利を上回ると、政府のGDPに対する債務比率は下がっていくことを言います。物価上昇を含む名目GDPの成長が6%と高くなれば分母の名目GDPが大きくなるため、政府の債務比率はGDP比240%が、238%、236%と下がっていき、懸念されている財政危機は雲散霧消します。

ところが日本は、予想インフレ率(=期待インフレ率)が0%近くと低い。名目金利が短期金利で0%、長期でも1%未満と低くても、実質金利は高い。実質金利が高いと、設備投資や住宅購入のための借入れが増えず、GDPの成長は低いものになります。

GDPの成長率が低いと、毎年30兆円以上(GDP比6%以上)の財政赤字があるため、政府の債務比率は大きくなり続けるのです。

Next: 6. インフレの実現のためには何をするべきか?

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