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異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治

8. 急激な財政拡張策は、日本の政策にはならないだろう

And this in turn suggests something counterintuitive: while the goal of raising inflation is, in large part, to make space for fiscal consolidation, the first part of that strategy needs to involve fiscal expansion. This isn’t at all a paradox, but it’s unconventional enough that one despairs of turning the argument into policy (a despair reinforced by yesterday’s meeting …)(16)

これは代わりに、直観に反することを示唆する。インフレ率を高めるのは、多くの場合、財政再建の余地をつくることであるのに対して、最初は財政の拡張をしなければならないからである。これはパラドックスということでは毛頭ないが、この議論を政策にすることは絶望的という点で型をはみだすものだろう。(昨日のIMFでの会議でこの絶望感は強くなった)<翻訳(16)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

日本に残された財政拡張策は、財政赤字をますます大きくします。このため、実際的な政策にはなることは絶望的だと、クルーグマンは言っています。IMFの日本経済をテーマにした会議でも、日本に残された財政拡張策は否定されたようですね。

9. 日本に必要なインフレ率は、2%よりはるかに高い(4~6%)

Suppose, bad instincts aside, that we really can go down this road. How high should Japan set its inflation target? The answer is, high enough so that when it does engage in fiscal consolidation it can cut real interest rates far enough to maintain full utilization of capacity. And it’s really, really hard to believe that 2 percent inflation would be high enough.(17)

財政拡張は、政策的に無理だという直感はさておき、この道をとったとして仮定してみよう。日本はインフレ目標をどれくらいの高さにすべきか。答えは、財政の再建をせねばならない時期に来たとき、経済のフル活用ができるように、実質金利を低くできるインフレの高さである。このため、2%のインフレ目標では、全くもって不十分である。<翻訳(17)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

クルーグマンは、2%のインフレ目標では、日本が財政危機から脱するのは不可能と言っています。彼の想定は何%か?たぶん4~6%です(別の書籍でこれを書いていました)。

This observation suggests that even in the best case Japan may face a version of the timidity trap. Suppose it convinces the public that it will really achieve 2 percent inflation; then it engages in fiscal consolidation, the economy slumps, and inflation falls well below 2 percent. At that point the whole project unravels – and the damage to credibility makes it much harder to try again.(18)

以上の見解から言えるのは、最良のケースでも、日本は、今度は「臆病の罠」に直面することである。国民に2%のインフレが確実と確信させた場合、財政の再建に取り組まねばならず、経済は不況になって、インフレは2%の相当下のレベルに低下するだろう。その地点に至ると、全体の政策がバラバラになって、政策への信頼は、回復不能なダメージを蒙る。<翻訳(18)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

財政赤字を現在の6%より大きくすることによる、2%を超えるインフレ目標は、日本は政策化できないということです。

それじゃ、結局どうなるのか。ここが、クルーグマンの最後の処方箋です。

What Japan needs (and the rest of us may well be following the same path) is really aggressive policy, using fiscal and monetary policy to boost inflation, and setting the target high enough that it’s sustainable. It needs to hit escape velocity. And while Abenomics has been a favorable surprise, it’s far from clear that it’s aggressive enough to get there.(19)

結論:日本が採らねばならないのは、財政と金融を使いインフレを高める、真に積極的な政策である。インフレ目標を、インフレが維持可能なレベルに高くすることだ。そのためには、重力圏を脱する速度が要る(米国と欧州も日本と同じ道をたどるが)。アベノミクスは好ましい驚きだった。しかしそれが、その速度に至れるかどうか、まるで分からない。<翻訳(19)>
出典:Rethinking Japan – The New York Times

※記事公開時の翻訳「インフレ目標を、財政が維持可能なレベルに高くすることだ」は、「インフレ目標を、インフレが維持可能なレベルに高くすることだ」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。(2015年11月27日 マネーボイス編集部)

重力圏(引力圏)を脱する速度とは、形容詞的表現です。クルーグマンがここで言うのは、財政が維持可能なインフレには、日本は至らないということです。

この意味は、政府財政が維持可能でなくなること、つまり財政危機です。問題はそれが来るのがいつかです。10年債の金利が2.5%に上がった時です。2015年11月現在の10年債の金利は、0.3%付近です。

内閣府の想定では、経済再生ケースの場合、2018年の長期金利が2.7%です。名目GDPが十分に(3%以上)成長して好況だった場合、金利の上昇は早く来ます。この場合、2020年の名目GDPは、現在より94兆円大きな594兆円。これが600兆円シナリオです。

他方、GDP成長成率が低いベースラインケースでは、2021年の長期金利が2.3%、2022年2.4%、2023年2.5%です。経済成長が低いベースラインケースでも、2020年の名目GDPは、現在より52兆円も大きな552兆円です。
(※中長期の経済・財政に関する試算 – 内閣府(2015年7月22日)[PDF] 長期金利はP4~5にあります)

まとめ

結局、グルーグマンは、

  • 量的緩和は失敗だった
  • 自分が日本経済の自然成長率は高いと間違えたための失敗だった

と言っています。

内閣府は、中長期の経済・財政に関する試算で、
(1)経済再生ケースでは、名目経済成長率の今後9年の平均は3.4%(2023年の名目GDPが663兆円)
(2)ベースラインケースでも、2023年の名目GDPは574兆円で、年率平均の成長率は1.8%
としています。

1998年の名目GDPは504兆円でした。17年後のいま2015年は500兆円です。17年間の名目GDP成長は、マイナス4兆円です。人口の減少の問題は、今後、厳しくなります。名目で1.8%の成長も危ういでしょう。それにしても内閣府は、このようなクルーグマンの認識変更と反対に、なぜ2000年代よりはるかに高い名目経済成長を描くのか?

その理由は、財政破綻しないためには、これくらいの名目GDP成長が必要であると、目標から逆算しているからです。

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