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米中対立の背後で進む「ロシア」の急拡大、圧倒的軍事力で南米・アジア制覇はすぐそこに=高島康司

「S-400」

アメリカの覇権の前提にあるのは、圧倒的な軍事力である。必要であれば、世界のどの地域でも軍を動員して敵を駆逐する能力が、結局は覇権を維持するための前提になっている。

しかしもし、ロシアの配備した「S-400」が米空軍を迎撃する能力があり、これを米空軍が恐れて戦略を変更しなければならないのであれば、世界の一部の地域ではロシアが制空権を握っており、アメリカの軍事的な覇権の前提が崩れつつあることを示しているはずだ。

ちなみに「S-400」は、周囲600キロの飛行物体を探知し、400キロメートル離れた地点で撃墜できる高機能迎撃ミサイルシステムだ。巡航ミサイルであれ、超音速の戦闘機であれ、また、地球の裏側から成層圏を飛行してくる大陸間弾道弾であれ、どんな飛行物体も探知し、危険の及ばない位置で撃ち落とすことができる。

ライバルのアメリカの防空システム、「パトリオット」との決定的な違いは、全方位の目標を見つけ出し撃ち落とす能力だ。アメリカのシステムは、あらかじめ指定された180度の範囲しか探知できない。

さらに「パトリオット」は、発射装置を準備して戦闘態勢を整えるのには30分かかる。くわえて、「パトリオット」が目標を破壊できる距離は、「S-400」の400キロに対して180キロと半分以下だ。

これはミサイル防衛だけでなく、戦闘機や爆撃機との戦いにおいても重要な意味を持つ。「S-400」に狙われたら最後、戦闘機や爆撃機にはミサイルを発射したり爆弾を投下したりする時間的な猶予は一切ない。

このように「S-400」は、現存する迎撃ミサイルシステムで最先端の兵器でアメリカも開発できていない。そのため、中国やシリア、そして将来的にはイランのようなロシアの同盟国のみならず、サウジアラビア、トルコ、インドなどのアメリカの同盟国も購入を決定している。いまインドネシアが導入を検討しているところだ。

「ウォールストリート・ジャーナル」の記事にもあるように、いま「S-400」の防空圏はシリア北部から東ヨーロッパ、そして北極圏というロシアの領土に比較的に近い地域に配備されているが、これが中国やイラン、さらにアジアの他の地域に配備されるようなことにでもなれば、これらの地域におけるアメリカの作戦能力は限定され、アメリカの軍事的な覇権にほころびが出てくるに違いない。

ベネズエラのロシア軍基地

このように、米中対立の背後ではロシアの「S-400」の配備拡大によって、アメリカの軍事的覇権が挑戦される状況になっている。

さらにロシアは、南米のベネズエラにも軍事拠点を築き、アメリカの喉元に迫る勢いだ。周知のように、いまベネズエラは、選挙で勝利宣言をしたマデュロ大統領に反旗を翻したグアイド国会議長が暫定大統領就任を宣言し、内乱状態にある。

アメリカはグアイド氏をマデュロ氏に代る正式な大統領として承認し、マデュロ大統領を退任に追い込むために圧力をかけている。ベネズエラ産原油のアメリカへの禁輸処置も発動された。

長くなるので記事を改めるつもりだが、イギリスの大手紙、「インディペンデント」のなどの取材記事でも明らかなように、マデュロ大統領の追い落としを画策したのはCIAである。これは、作戦を担当したCIAの幹部本人が記事で明確に証言している。

そして、マデュロ大統領の追い落としにトランプ政権が躍起になっている大きな理由は、ベネズエラのロシア軍基地の建設である。

昨年の12月23日、ロシア軍基地がベネズエラの首都カラカスから北東におよそ200キロにあるカリブ海のラ・オルチラ島に建設されることが発表になった。その規模はまだ明らかにされていないが、軍艦の停泊が可能で、戦闘機の離着陸できる滑走路も建設する計画のようだ。

この軍事基地の建設を予告してか、昨年の12月10日にロシアの戦略爆撃機、「ツボレフTu-160」が2機、大型輸送機、「アントノフAn-124」 が1機と「イリューシンIL-62」がパイロットや技術者ら100人を乗せてカラカスのシモン・ボリバル・デ・マイケティア空港に到着した。

これは、南米というアメリカのまさに喉元に、ロシア軍が展開するということだ。もしベネズエラのこの基地にも「S-400」が配備されるようなことにでもなれば、アメリカ軍の軍事力が及ばない一角がアメリカの裏庭である南米に誕生することになる。第2のキューバである。

トランプ政権はマデュロ政権の打倒に必死になるだろうが、もしマデュロ政権が持ちこたえると、南米にロシアの影響圏が誕生する。中東におけるシリアのような存在になるだろう。

Next: 中国やインドだけじゃない? ロシアの勢力はアジアでも拡大している…

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