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2019年も堅調なアメリカ経済が世界をリードする~米中対立、欧州情勢ほか専門家の見方=俣野成敏

【アメリカの行く手に立ちはだかる巨人・中国】

俣野:今、アメリカでもっとも注目されているものと言えば、中国との貿易摩擦ですね。

大前:はい。今のトランプ政権にとって、最大の懸案事項とも言えるのが“貿易赤字”です。それまでのアメリカは、民主主義と市場経済を世界中で推し進めていく政策の一環として、自由貿易を推進することが、自国の利益になると見なしてきました。けれども、必ずしも自由貿易が自国を利するとは限らないことは、かなり前からわかっていました。

たとえばNAFTA(北米貿易協定)が締結された1992年頃まで、アメリカの製造業労働者は1,700万人前後で推移していました。それが2015年には、1,200万人程度にまで減少しています。同じく加盟国のメキシコも、NAFTAによって製造業部門で約50万人の雇用が生まれた一方、安価な米国産トウモロコシの輸入増によって、15年間に農業部門で約130万人が失業したとされます(※週刊エコノミスト2017年3月28日号より)。

もちろん、実際はNAFTAだけが原因ではないでしょうが(※NAFTAは2018年10月にアメリカ、カナダ、メキシコ間で見直し案が妥結。名称もUSMCA[アメリカ・メキシコ・カナダ協定]へと変更した)。

話を米中貿易戦争に戻しますと、昨年(2018年)の中国の成長率が6.6%と、28年振りの低成長だったことが明らかとなり、減速傾向が見られます(※日経新聞2019年1月22日Web版より)。

そうは言っても、中国が依然として世界の経済成長率を大きく牽引する存在であることに変わりはありません。英銀HSBCが、75カ国を対象に分析を行った結果、中国のGDPが2030年までにアメリカを抜いて、世界最大の経済大国になるだろう、との予測を発表しています(※Bloomberg 2018年9月23日Web版より)。

しかしこれはアメリカ、ひいてはトランプ氏にとっては受け入れがたいことです。トランプ政権が今まで掲げてきたスローガン、“Make America Great Again”にある意味、反することになりますから。おそらく氏は中国に対して当面、手を緩めることはないと思います。一次的に妥協することはあるにせよ、今年は特に譲ることはない、と思っておいたほうがいいでしょう。
※参考:中国が米産大豆の輸入を拡大 – 日経新聞

大前:現在はITの分野で中国が猛烈に追い上げており、アメリカにとっては大きな脅威となっています。昨年7月、米アップル社で働いていた中国系の元社員が、離職前に自動運転に関する大量の機密データをダウンロードした上、国外に持ち出そうとしたところをFRBによって逮捕されました。多くの学生が留学生としてアメリカに渡り、10年、20年単位で当地に根を張りながらスパイ活動をしている実態が、浮き彫りになった事件でした。

米中摩擦の中でも、焦点となっているのが軍需産業です。ITは特に軍事と密接な関係にあります。一例を挙げると、最近、次世代モバイル通信・5Gの分野で、中国企業のHUAWEIが槍玉に挙げられていました。開発競争が過熱するに従って、両国の対立はますますヒートアップしています。

俣野:要は、現在は米中が相討ちの状態だと言えそうですね。今後の情勢を占う上で、大前さんが注目しているイベントなどはありますか?

大前:アメリカの対中国政策については、通商に関する期限が2月末に迫っています。注目は、2月頭に予定されているトランプ大統領の一般教書演説と、3月に中国で開かれる全人代ですね。

トランプ氏の演説を受けて、習近平国家主席がどのようなスローガンを出してくるのか、というのは要チェックだと思います。両国の闘いは、相応の落とし前をつけることになるでしょうが、その前に何らかの衝突が起きるような胸騒ぎがしてなりません。

Next: ブレグジットを控えて混迷を深める欧州、基本的にサプライズは無い?

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